2014.03.20

我が国の専門士業の資格者人口のあり方に関する意見

埼玉県において活動する私たち専門士業団体は、現下の社会情勢と専門士業を取り巻く環境をふまえ、市民が安心して相談や依頼のできる環境を維持するために、専門士業の資質の維持向上と有資格者の人口のあり方について意見を発表する。

  1. 近年の社会情勢
    我が国の生産年齢人口や総人口が減少を続け、会社等の事業体の数も減少傾向をたどり、長期的な経済低迷を経た影響などにより、専門士業が対象とする各種手続や取引が横這いまたは減少傾向にある。
    官公署の行政手続きの簡素化やIT技術の進展により、当事者が各種の行政手続を専門士業の助力を受けずに行えるケースも増えている。
    こうした要因から、専門士業が取り扱う専門サービス業務が、業種によって変動幅の大小はあるものの、減少傾向にある点で共通している。また大幅な増加を予想したのに、その予想が現実にならない業種もある。
  2. 各専門士業が抱える構造的な問題
    他方で、各専門士業の登録者数は、上記の社会情勢の変化に対応することなく、以前から同程度の新規資格者が増え続けているか、分野によっては急激な増員を進めている。前述のとおり専門士業の業務が長期的に減少傾向にあるのに反して、有資格者数が増え続けるという、いわば「資格の水膨れ」とも言うべき不均衡状態に陥っている。
  3. 上記問題のもたらす弊害
    上記の問題は次のような深刻な弊害をもたらしている。
    (1) いずれの専門士業も、資格取得は単なる出発点に過ぎない。そこから依頼者の安心できるサービスを提供できるようになるためには、先輩有資格者の指導を受けつつ、実務家として必要な技量を身に付ける、いわゆるOJT(On the Job Training)システムが必要不可欠である。ところが、今日のように業務の減少と新規登録者の増加の不均衡が続くと、先輩有資格者が力を失い、新規登録者は指導を受ける機会を失う結果となり、OJTシステムが崩壊する現実に直面しつつある。その結果、実務経験が不十分な資格者が独立開業し、専門家としてのレベルが低下することで、利用者に不利益が及ぶことが強く懸念される。
    (2) また、各専門士業が専門職としての魅力を喪失することは、優秀な若者が資格の取得を目指さなくなり、次世代の専門士業の質の低下に拍車がかかるおそれがある。
    (3) さらに、過当競争の激化によって、誇大広告や過度の誘引が繰り広げられたり、本来の職域では経営が成り立たないとして他士業の職域への侵食も増えており、一部では無用な軋轢や混乱さえ生じている。
    しかし、こうした事態は、専門士業の本来の職責と資格の存在意義が不明確になり、利用者に不利益や混乱を及ぼす恐れがある。
  4. 実情を踏まえた資格者人口の見直しを求める
    私たちは、以上述べたように、専門士業の業務の減少傾向を踏まえて、現下の需要に見合う有資格者人口のあり方について、各士業団体がこの問題を正面から受け止めて危機意識を共有するとともに、関係政府機関において見直しの検討作業を早急に始めるべきだと考える。

以 上

2014年(平成26年)3月20日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司
埼玉司法書士会会長  知久 公子
埼玉土地家屋調査士会会長  佐藤 忠治

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