2014.04.15

「商品先物取引法施行規則」改正案に対する意見

第1 意見の趣旨

当会は,商品先物取引法の下で,個人顧客を相手方とする商品先物取引について,不招請勧誘(顧客の要請をうけない訪問・電話勧誘)の禁止規定を大幅緩和する商品先物取引法施行規則改正案(第102条の2第2号)について,断固反対である。

第2 意見の理由

  1. 経済産業省,農林水産省は,2013年(平成25年)6月14日の規制改革実施計画において,「顧客勧誘時の適合性原則の見直し等」として,「勧誘等における禁止事項について,顧客保護に留意しつつ,市場活性化の観点から検討を行う。」ことが定められたことを理由とし,2014年(平成26年)4月5日,「商品先物取引法施行規則」及び「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」改正案に関する意見公募を発表した。
    具体的には,商品先物取引法施行規則(規則第102条の2)を改正して,ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に,熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満であること,基本契約から7日間を経過し,かつ,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合に限る)を不招請勧誘の禁止の適用除外規定に盛り込んでいる。
  2. しかしながら,以下の理由により,上記改正には断固反対である。

    (1) そもそも,商品先物取引における被害事例の多くは,悪質な業者による突然の電話や訪問による巧み且つ強引・執拗な勧誘に始まり,断り切れずに勧誘に屈した投資経験の乏しい一般消費者が,書面上だけのおざなりな理解度チェックを経て契約をするに至り,取引の仕組みや商品市場の相場動向などは一般消費者にはわかりにくいため,取引の判断は担当外務員に頼らざるを得ない状況となり,より多くの資金で大量多数の取引をするほど業者に効率よく手数料が入ることから,担当外務員は,委託者の属性に照らして過大な取引を行わせ,結果,相場変動による損失と手数料により,委託者の資産が身ぐるみ剥がれるというものである。
    このような被害は,決して70歳以上の者に限って生じてきたものではない。上記のような勧誘手法によれば,高齢者の他,会社員,自営業者,会社の代表者,専業主婦,若者など,多種多様な年齢層,属性の者が被害者となり得るのであり,実際,70歳未満の被害事例も多く報告されていた。従来の商品先物取引被害の実態を踏まえれば,70歳未満の者について規制を緩める理由など全くない。

    (2) また,商品先物取引における不招請勧誘の規制については,長年同取引による深刻な被害が発生し,度重なる行為規制強化の下でもなおトラブルが解消しなかったため,与野党一致のもと2009年7月に商品先物取引法を改正し,禁止規定が導入された経緯がある(2011年1月施行)が,同改正審議の衆議院ないし参議院の附帯決議においては「商品先物取引に関する契約の締結の勧誘を要請していない顧客に対し,一方的に訪問し,又は電話をかけて勧誘することを意味する『不招請勧誘』の禁止については,当面,一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。」,「さらに,施行後1年以内を目処に,規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象等を見直すものとし,必要に応じて,時期を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」とされている。
    それにもかかわらず,本規則案のように規制緩和を行うことは,法律が個人顧客に対する無差別的な訪問・電話勧誘を禁止してきた趣旨を没却させるものである。

    (3) さらに,2012年(平成24年)8月に産業構造審議会商品先物取引分科会が取りまとめた報告書では,「将来において,不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として,実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」とされ,商品先物取引に関する不招請勧誘規制を維持することが確認された。
    しかるに,現在も,個人顧客に対し,不招請勧誘禁止の対象外である金の現物取引やスマートCX取引(損失限定取引)を勧誘して顧客との接点を持つや,すぐさま通常の先物取引を勧誘するなど不招請勧誘禁止規定を潜脱した勧誘により契約をし,その後旧態依然とした手法で顧客を食い物にして多額の損失を与える被害が少なからず発生している。
    商品先物取引業者の営業姿勢はまったく変わっていないと言わざるを得ず,不招請勧誘禁止規定の緩和をする状況にはない。

    (4) そして,前記熟慮期間を設けた契約は,かつて「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」(以下「海先法」という。)の第8条に14日間の熟慮期間として設けられていたが,この熟慮期間の存在により,被害が防がれた例はほとんどなく,機能しなかった。

    (5) 手続的にも,上記施行規則案は,法律が「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為を除く」(商先法214条第9号括弧書き)と定めた省令への委任の範囲を超えて施行規則によって委託者保護を後退させるものであり容認できない。

    (6) 以上,当会は,2013年(平成25年)12月11日付け「商品先物取引について不招請勧誘禁止を撤廃することに反対する会長声明」にて,商品先物取引についての不招請勧誘規制を維持するよう求めたが,本規則案についても,個人の委託者保護の観点から,商品先物取引の不招請勧誘禁止規定を骨抜きにするような上記施行規則の改正案には,断固反対である。

以 上

2014(平成26)年4月15日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

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