2014.06.12

行政書士法の改正に反対する会長声明

日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立,再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを要望し,行政書士法の一部を改正する法律案を国会へ上程するための動きを展開しているが,当会は,次の理由により,行政書士に対する行政不服申立代理権の付与に強く反対する。

  1. 行政書士の主たる業務は,行政手続の円滑な実施に寄与すること(行政書士法1条)を主目的とした行政庁に対する各種許認可関係の書類作成・提出であるのに対し,行政不服申立制度は,行政庁の違法・不当な処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度であって,両者はその性質上相容れないものである。
    また,行政書士の監督や懲戒は都道府県知事が行い,行政書士会に対する監督は都道府県知事が,日本行政書士会連合会に対する監督は総務大臣がそれぞれ行うものとされている。更に,行政書士のうちの相当数が行政官僚の職歴を有している。このような立場にある行政書士に自らの監督機関である行政庁と厳しく対峙し,国民の側に立った権利擁護活動を全うすることは期待できない。
    行政庁の行為に対する行政不服申立ての代理行為は,行政庁側に関与していない,弁護士自治で国家機関からの独立を担保された弁護士こそが行うべきである。
  2. 行政不服申立ての代理行為は行政訴訟の提起も十二分に視野に入れて行われなければならず,法律処理の初期段階で適正な判断を誤ると直ちに国民の権利利益を害することに繋がりかねないところ,行政書士がかかる行政不服申立ての代理人としての職責を全うするには,紛争の解決という観点から,その能力的担保が十分とはいえない。
    これに対し,日本行政書士会連合会では,「不服申立て代理権の付与するにあたっては,不服申立手続に関する研修を実施し,同研修を修了した特定行政書士(仮称)のみが業務を行うことができるようにする」などといった方策も検討されているようである。しかしながら,「特定行政書士」になるための研修は,もっぱら日本行政書士会連合会の会則で定められ,国が何らの責任も負わない設計になっている。このような制度的な担保を欠く研修の効果は極めて希薄なものとならざるをえず,かかる研修をもって行政書士の能力的担保が確保されることにはならない。
  3. 行政書士についても倫理綱領が定められているが,当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件の取扱いを前提とするものではなく,この点で弁護士倫理とは大きく異なっている。上述したとおり,行政不服申立てでは,行政庁と国民の利益・利害が鋭く対立するのであるから,国民の権利利益が侵害されることのないよう利益相反行為等にかかる厳しい倫理規範が設けられていなければならず,またこれに違反した場合の懲戒手続があって然るべきであるが,この点において行政書士の倫理綱領は不十分といわざるを得ない。
  4. これらの重要な問題に対し,「行政書士が行政不服申立ての代理権を獲得しても,その範囲は『行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る』ものであるから影響は小さい。」との指摘もある。しかしながら,国民の権利利益自体に対する問題を活動領域の大小で図ることは決して許されない。
  5. 日本行政書士会連合会による前記要求の根底には,行政書士業務の需要と資格者の供給とのバランスが崩れていることがあると考えられるが,行政手続の簡素化・IT化によって本人申請が増え,行政書士に依頼する需要が大幅に減少しているという実態に対しては,行政書士資格者の供給数を見直し,行政書士本来の業務に全うできる環境を整備することによって対応すべきであって,行政不服申立代理権にその活路を見いだすべきではない。

以上のとおり,当会は,行政書士に対する行政不服申立代理権の付与には強く反対するものである。

以 上

2014(平成26)年6月12日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

戻る