2014.07.09

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」 (いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明

  1. はじめに
    昨年12月,国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する有志の議員によって,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が国会に提出され,今国会において審議がなされている。
    このカジノ解禁推進法案は,刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当するカジノについて,一定の条件の下に設置を認めるために必要な措置を講じるとするものである。
    確かに,特別法(当せん金付証票法,競馬法,自転車競技法,小型自転車競走法,モーターボート競走法,スポーツ振興投票の実施等に関する法律等)により,賭博罪・富くじ罪に該当する行為を合法化する規定が置かれているものであるが,ここで想定されているカジノは,「会議場施設,レクリエーション施設,展示施設,宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設」と一体となって設置される,いわゆる「IR方式」である。民間企業が直接,施工,開発,そして運営する完全な民営カジノという点で,従来の公営ギャンブルとも性格を異にしている。
    そこで,カジノについても,違法性阻却を認めることができるかどうかについては,その予想される弊害に照らし,既に公認されている公営ギャンブルと比較して,目的の公益性,運営主体の性格,収益の扱い,射倖性の程度,運営主体の廉潔性・健全性,運営主体への公的監督,副次的弊害の防止等の観点から,具体的に検討されなければならない。
  2. カジノ解禁推進法案の問題点
    カジノ推進の立法目的に経済の活性化が掲げられているが,その経済効果は,マイナス要因の可能性についての客観的な検証も含めて,十分な検証の上に評価されるべきであるが,そのような検証がなされているものではない。
    他方で,暴力団が資金源として,カジノへの関与に強い意欲を持つことは,容易に想定されるところ,事業主体として参入し得なくても,事業主体に対する出資や従業員の送り込み,事業主体からの委託先・下請への参入等,さらには,カジノ利用者をターゲットとしたヤミ金融,カジノ利用を制限された者を対象とした闇カジノの運営,その他,周辺領域での資金獲得活動に参入する可能性は十分に懸念されるところである。
    さらに,我が国も加盟している,マネー・ローンダリング対策・テロ資金供与対策の政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告において,カジノ事業者はマネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い非金融業者として指定されているところ,我が国にカジノを設けた場合,こうしたマネー・ローンダリングを完全に防ぐことができるような具体的対応策も考えらていない。
    そして,ギャンブル依存症の問題はさらに深刻である。ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性で,放置すれば自殺に至ることもあるという極めて重篤な疾患である。そして,2006年の貸金業法改正等,官民一体となって取り組まれてきた一連の多重債務者対策によって,この間,多重債務者が激減し,結果として,破産者等の経済的に破綻する者,また,経済的理由によって自殺する者も減少してきた。カジノの合法化は,これら一連の対策に逆行して,ギャンブル依存症,経済的理由による自殺者を再び増やす結果をもたらす可能性があり,決して許されざるものである。
    また,合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も座視できない。
    その他,民間企業が運営するカジノ施設における不正行為の防止や運営に伴う有害な影響の排除の措置等は何ら具体的ではなく,そもそも民間企業の設置,運営にかかるカジノにおいて,公共の信頼を担保することは困難といわざるをえない。
  3. 結び
    以上のとおり,カジノ解禁推進法案は,その経済効果のみが喧伝され,具体的な議論がなされず,①カジノによる経済効果への疑問,②暴力団関係者の不当な関与の危険性,③マネーロンダリング対策,④ギャンブル依存症,及び,多重債務問題への危惧,⑤青少年の健全な育成の阻害等の様々な社会に対する深刻な弊害をもたらすことが懸念されていることからすれば,賭博としての違法性阻却をする実質的根拠が認められるものではなく,そもそも,カジノ推進といった手法による経済的効果を期待すること自体が,容認し得ないものである。
    よって,当会は,カジノ解禁推進法案に強く反対の意見を表明し,カジノ解禁推進法案の廃案を求めるものである。

以 上

2014(平成26)年7月9日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

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