2014.07.09

製品・食品事故と報告義務に関する意見書

1.意見の趣旨

  1. 薬事法における「製品事故」の定義を、「製品の使用に伴い生じた事故のうち、製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」と規定した上で、事業者が、対象製品について「重大製品事故が生じた」または「同種製品事故が多数生じた」との情報を知ったときは、原因調査の結果を待たず、危害の発生について、事業者が主務大臣に報告する義務を定めるよう薬事法を改正すべきである。
  2. 食品衛生法における「食品事故」の定義を、「食品の摂取に伴い生じた事故のうち、食品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」と規定した上で、事業者が、対象食品について「重大食品事故が生じた」または「同種食品事故が多数生じた」との情報を知ったときは、原因調査の結果を待たず、危害の発生について、事業者が主務大臣に報告する義務を定めるよう食品衛生法を改正すべきである。

2.意見の理由

  1. 最近の欠陥商品事例
    近年、茶のしずく石鹸アレルギー事件や、カネボウ美白化粧品白斑症状被害、アクリフーズ冷凍食品事件等、化粧品、食品などの欠陥商品による重大な被害が連続して生じている。そして、これらの事件は事業者から行政庁への報告や消費者への公表が遅れたことが被害拡大につながっている。
    具体的には、茶のしずく石鹸アレルギー事件については、厚生労働省が、2010(平成22)年10月15日に「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」と題する注意喚起を行ったが、社名・製品名の表示はされず、製造業者である株式会社悠香は、2011(平成23)年5月になってはじめて、製品の自主回収を開始するとともに報道機関に製品名を公表した。
    また、カネボウ美白化粧品白斑症状事件では、2011(平成23)年10月、購入者から最初の症例がカネボウ側に相談され、2012(平成24)年2月、関西支社の教育担当者が、「美容部員3名に白斑症状が出ている」と本社のマーケティング部門と研究所に問い合わせたが、カネボウ本社はこの症状を「病気」として処理し、その後も複数の購入者からの相談が続き、2012年7月・9月には、大学病院の医師から美白化粧品との関連性を疑う異常性白斑について製造業者に電話連絡がされたが、2013(平成25)年7月に至ってようやく、同社は自主回収を開始し、製品名を公表した。
    アクリフーズ冷凍食品事件では、2013(平成25)年11月13日に、対象製品につき購入者から異臭がするとの苦情がよせられて以降、同製品について多数の苦情がよせられたが、アクリフーズが農薬混入の事実を公表したのは、同年12月29日のことであった。
    いずれの被害も、主務大臣への報告や消費者への公表が速やかに行われていれば、被害の拡大を防止できたことは明らかである。
  2. 現行の薬事法、食品衛生法の内容とその課題
    医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器(以下「医薬品等」という。)を対象とする薬事法は、「製品の使用によって保健衛生上の危害が発生、拡大するおそれがあることを知ったときは、廃棄、回収、販売停止・情報提供その他の危害発生防止措置を講じなければならない」(法77条の4第1項)と定め、報告義務について「回収に着手したとき(第七十条第一項の規定による命?を受けて回収に着手したときを除く。)は、その旨を厚生労働??で定めるところにより厚生労働大臣に報告しなければならない」(法77条の4の3)と定めるにとどまっている。
    また、食品、添加物等(以下「食品等」という。)を対象とする食品衛生法は、「食品等事業者は、販売食品等に起因する食品衛生法上の危害の発生を防止するため、法が定める記録の国・知事等への提供、食品の廃棄その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない」(法3条3項)と定めるにとどまり、報告義務については、規定すらおいていない。
    このように、現行の薬事法及び食品衛生法は、製品や食品の使用・摂取に伴う危害が発生していても、主務大臣への報告や消費者への公表よりも、当該危害が製品の不具合に起因するかどうかの調査、対処が優先されており、原因調査中は、主務大臣への報告や消費者への公表が先送りされるため、この間も被害が拡大してしまうことになる。
    ちなみに、23年間にわたり、乗用車で6件約45万9000台、大型・中型トラックで3件約5万5000台にのぼるリコールにつながる不具合情報(クレーム)を国土交通省に報告せず社内で隠ぺいしていた三菱自動車リコール隠し事件等の悪質なリコール隠しは、その製品に起因する事故であるか否かを調査するという名目で、行政庁への報告、消費者への公表が回避されてしまっていた。
    このような点を考慮すると、医薬品等、食品等についても、その製品による被害の拡大を防止するためには、当該危害が製品に起因するかどうかの調査結果を待たず、原因不明段階でも主務大臣への報告義務を課し、消費者に注意喚起をする必要があるが、現行の薬事法、食品衛生法では、そのような規定が定められていないのが現状である。
  3. 消費生活用製品安全法の規定
    この点、消費生活用製品安全法は、「製造又は輸入の事業を行う者は、重大製品事故が生じたことを知ったときは、内閣総理大臣に報告しなければならない」(35条)として、重大製品事故の報告義務を定め、「製品事故」の定義を、「製品の使用に伴い生じた事故のうち」、「消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」と規定し(2条5項)、製品の欠陥によって生じた事故か否か不明な段階のものも製品事故に含めている。つまり、消費生活用製品安全法は、事業者に対して、重大製品事故が発生したときは、原因不明段階でも内閣総理大臣への報告義務を課し、事業者の責任の有無とは別に消費者への注意喚起を優先しているのである。
    しかし、消費生活用製品安全法は、その対象製品から食品衛生法に規定される食品等、薬事法に規定される医薬品等を除外している(2条1項別表)。
  4. 薬事法、食品衛生法改正の必要性とその内容
    そこで、医薬品等及び食品等の欠陥商品による被害の拡大を防止するためには、消費生活用製品安全法と同様に、原因調査の結果を待たず、危害の発生について、事業者が主務大臣に報告する義務を定めるよう、薬事法、食品衛生法を改正する必要がある。
    もっとも、消費生活用製品安全法のように、報告の対象を、製品事故のうち発生する危害が重大である、死亡、重傷病、後遺障害、一酸化炭素中毒事故のような「重大製品事故」に限定すると、医薬品等や食品等の事故に多くみられる、個別事故の被害の程度は重大事故に該当するかは不明確であるが、同種事故が多発してしまうという被害の拡大を防止することができない。
    よって、医薬品等及び食品等の欠陥商品による被害の拡大を防止するためには、「製品事故」及び「食品事故」の定義を、それぞれ「製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」、「食品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」と規定した上で、「重大製品事故」「重大食品事故」が生じた場合のほか、同種製品事故ないし同種食品事故が「多数」生じた場合の情報を含めて、事業者が知ったときは、原因調査の結果を待たず、危害の発生について、事業者が主務大臣に報告する義務を定めるよう、薬事法及び食品衛生法を改正する必要がある。そして、事故の重大性及び多発性の要件については、施行規則により具体化すべきである。
    なお、厚生労働省は、美白化粧品問題の対策として、薬事法77条の4の2、施行規則253条の副作用報告制度に関する省令を改正し、化粧品の副作用について「死亡または治療30日以上の重篤な症例の報告義務」を加えようという改正案を提案しているが、これでは上記の通り、被害防止の観点から不十分である。「重篤な症例」に限らず、重篤に至らない症例であっても、症例が多発しまたは同種症例が「多発」するおそれがあるとき」も報告義務の対象とすべきである。
  5. 結論
    以上から、意見の趣旨のとおり、薬事法及び食品衛生法を改正すべきである。

以 上

2014(平成26)年7月9日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

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