2014.09.11

電気通信事業における利用者保護規定の整備を求める意見書

第1 意見の趣旨

携帯電話,スマートフォン,インターネット,光回線等の電気通信役務の提供(以下「電気通信サービス」という。)に関する契約の締結において,次のとおり利用者保護規定の整備を早急にすべきである。

  1. 電気通信事業者等が,消費者に対し,電気通信サービス契約の締結又はその媒介,取次ぎ若しくは代理(以下「契約の締結等」という。)を行うに当たっては,訪問販売や電話勧誘販売の方法であるか店舗販売の方法であるかを問わず,契約書面交付義務及びクーリング・オフ制度,不実告知等の禁止及び契約取消権並びにこれらに対する行政規制権限等の消費者保護規定を導入すべきである。
  2. 電気通信事業法第26条を,次のとおり改正すべきである。
    (1) 同法第26条に規定する説明義務の対象となる提供条件等の事項(施行規則第22条の2の2第3項)については,書面に記載して交付することを義務付けること。
    (2) 電気通信事業者が同法第26条の説明義務に違反したときは,説明義務違反による契約解除権または重要事項の不告知による契約取消権を導入すること。
  3. 第1項及び第2項?の取消ないし解除規定について,当該電気通信サービス契約の締結に伴って,当該役務の提供を受けるために必要な機器(携帯端末等)の売買契約が締結されている場合は,その取消ないし解除の効果は当該売買契約にも及ぶ旨の規定を設けるべきである。
  4. 電気通信事業者等が,契約の締結等を行うに際し,契約期間途中での解約を禁止する規定または損害実額を超える違約金を請求する規定を設けることを禁止すべきであり,少なくとも,契約期間更新後においては,中途解約金を支払うことなく解約できるよう規制する旨の規定を設けるべきである。

第2 意見の理由

  1. はじめに
    近年,電気通信サービスの複雑化・多様化により,利用者の電気通信サービスに関する苦情・相談の件数が高止まり傾向にある。全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)によれば,平成25年度は46,409件の苦情・相談があった。
    携帯電話サービス,モバイルデータ通信に関するサービス,光回線の契約いずれにおいても,苦情・相談の件数のうち,解約に関するものと,契約時等の説明不足・虚偽説明に関するものは上位であり,多数の利用者が,契約内容を理解しないままに望まない契約を締結していることが明らかだといえる。
    このような問題が生じている背景として,電気通信サービス事業においては,契約当事者である電気通信事業者が,利用者に対する勧誘,説明等を直接行うことはまれであり,代理店業者や取次事業者が行っているため,電気通信サービスの契約内容は複雑であるにもかかわらず,高度な専門知識を持たない者が説明を行ったり,電気通信事業者の管理が行き届いていないために,説明不足であったり,不当勧誘行為が行われるという事態が生じている。さらに,電気通信サービスの契約にはインセンティブが生じるため,利用者に強引に契約を勧めたり,関連商品の抱き合わせ販売を行うといったことが挙げられる。
    具体的な相談・苦情の事例としては,①通話だけでよいのにスマートフォンを勧められ,モバイルデータ契約もしなければ通話ができないという説明を受けて契約をしたが,後日モバイルデータ契約がなくても通話できることを知った。②通信速度について,広告で表示されている速度と実際の速度との間に乖離があり,それを理由に解約を申し出たが解約料等を請求された。③契約時にオプションサービスの契約をあたかも強制であるかのような説明を受けた。頼んでもいないのにオプションサービスも契約したことになっていた。④訪問・電話勧誘について,夜遅くに勧誘される。断っても何度も勧誘される等がある。
    このような状況下においては,業界内における自主的取組や利用者に対する働きかけのみで問題改善を図ることは困難というべきであり,法制度によって利用者保護を図ることが必要である。
  2. 現行の法制度の内容と問題点
    電気通信事業法第26条では「電気通信事業者等は,電気通信役務の提供を受けようとする者に対し,国民の日常生活に係る電気通信役務に関する料金その他の提供条件の概要について説明しなければならない」とされている。しかし,説明義務違反があった場合においても,苦情処理等の規定しかないことから(同法第27条以下)実質的に利用者を保護する規定とならない。
    また,事業者の行う,誇大広告等の不当な広告表示については,景品表示法によって規制がなされ,抱き合わせ販売等の勧誘行為については,景品表示法の景品規制や,独占禁止法の適用が考えられるが,これらも契約自体の効力を否定する効力があるわけではなく,利用者保護規定とはいえない。
    そして,電気通信事業法の規定するサービスが特定商取引法の適用除外となっているため(特定商取引法施行令別表第2・32号),特定商取引法によって利用者保護を図ることもできない。
    このように,現行の法制度においては,説明義務違反や不当広告表示等があった場合においても,利用者を保護する実質的な規定がないといえる。
  3. 利用者保護規定として求められる内容
    (1) 特定商取引法と同等の利用者保護規定を設ける
    前述のとおり,電気通信事業法の規定するサービスは特定商取引法の適用除外となっているが,光回線の契約等では訪問販売・電話勧誘販売による契約締結が多い。締結される契約の内容が電気通信サービスであっても,訪問販売・電話勧誘販売における不意打ち的な勧誘が行われるという問題性には変わりがなく,利用者保護を図るべき必要性においては,特定商取引法が適用される他の取引と何ら異なるところはない。そこで,訪問販売及び電話勧誘販売について,電気通信事業法に,特定商取引法が規定する消費者保護規定(書面交付義務,クーリングオフ制度,過量販売規制,不実告知の禁止及びそれらの違反に対する契約取消し・行政処分,罰則等)と同等の利用者保護規定を設けるべきである。
    また,店舗販売の場合,原則として特定商取引法の規制対象にはならない。しかし,携帯電話やモバイルデータ通信契約の多くは店舗販売でなされており,家電量販店等において短時間の説明により大量販売が行われているため,契約内容や条件等の説明が十分とは言えない状況があることから,店舗販売であっても利用者保護の必要性がある。さらに,料金体系等の電気通信サービスに関する契約の複雑性や,通信エリア・実行速度など契約時点では役務の品質等を完全に理解することが困難であるという契約の特質,事業者と利用者との間の情報・交渉力の格差等の理由から,利用者が商品・役務の内容を十分に理解しないまま契約締結しており,事業者による不適切な勧誘・説明行為が行われている。このことからすれば,電気通信サービスに関する契約については特に利用者保護の必要性が高いのであって,店舗販売であっても,特定商取引法が規定するクーリング・オフ等の消費者保護規定の趣旨を及ぼすべきだといえる。ちなみに,美容サービスや教育サービス等の特定継続的役務提供契約(特定商取引法第41条)については,店舗契約についても書面交付義務,クーリング・オフ,契約取消権等の消費者保護規定が設けられている。よって,店舗販売についても,電気通信事業法に,特定商取引法が規定する消費者保護規定と同等の利用者保護規定を設けるべきである。
    (2) 説明義務違反に対し民事的な効力を付与する
    前述のとおり,電気通信事業法第26条は説明義務を定めているが,説明義務違反があった場合でも,苦情処理等の規定しかなく(同法第27条以下),電気通信役務を受ける者との契約関係を処理する規定がない。この点,同法の目的が,「電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し,もって電気通信の健全な発達及び国民の 利便の確保を図り,公共の福祉を増進すること」(同法第1条)であることに鑑みれば,上記説明義務は,電気通信役務を受ける者との契約上の義務として規定されたものとみるべきである。また,複雑な電気通信サービスに関する契約においては,利用者が契約内容や商品・サービスの品質等を理解することは,利用者の契約締結意思に大きな影響を与えるものであるから,説明義務は電気通信事業者等の電気通信サービスを受ける者に対する契約上の義務である。
    よって,電気通信事業者等が,契約上の義務である説明義務に違反した場合は,説明義務違反による契約解除権または重要事項不告知による契約取消権を電気通信役務を受ける者に付与すべきである。
    そして,説明義務違反による契約解除権・取消権を付与するに際し,説明の有無及び内容を明確にして,後の紛争を防止するため,同法施行規則第22条の2の2第3項の規定する事項については書面の交付を義務付けるべきである。
    (3) 関連機器の売買契約の効力
    電気通信サービスについては,役務提供に関する契約と同時に,その役務を受けるために必要な機器(携帯端末等)の売買契約が締結される場合が通常である。そのような現状において,前述の取消ないし解除による効果の及ぶ範囲が電気通信サービスに関する契約のみに止まるとすると,役務が提供されないにもかかわらず,それに必要な機器の売買代金を支払い続けなければならないといった不合理が生じる。端末等の売買契約は電気通信サービスを受けるために必要不可欠な機器の売買であるから,効力の面でも連動して処理することが合理的である。
    したがって,電気通信サービス契約の取消ないし解除の効果が機器等の売買契約にも及ぶ旨の規定を設ける必要がある。
    (4) 中途解約金規定を設けることの禁止
    電気通信サービスに関する契約においては,携帯電話におけるいわゆる「二年縛り」のような,中途解約金を定める規定が設けられることが多い。また,中途解約金規定には,契約期間満了後も,更新月に解約しない限り,自動的に更新され,解約時に解約金を要するものも少なくない。
    このような中途解約金規定については,月々の利用料金に比して高額な解約金を要するなど,利用者の苦情・相談の件数が特に多く,問題となっている規定である。これは,事業者が利用者との契約を長期間継続させるために設けられた規定だといえるが,事業者は本来サービスの向上等により,利用者の獲得・維持を図るべきであって,解約の違約金を定めることにより,利用者の自由な中途解約権を制限する規定を設けることを許すべきではない。
    とりわけ,電気通信サービスにおいては,利用者の引越,その他の生活環境の変化のみならず,通信機器,システム等のめまぐるしい進歩などにより,その利用状況,必要性についても変化しうるものであり,利用者が,契約時・更新時に,将来の事情の変化を予測・理解しうるものではなく,長期間拘束になじまないものでもある。
    ましてや,事業者が得るべき対価は,本来的には,その日々の利用料金によるべきものであり,当初の予定されていた期間経過後にまで中途解約金を取得する合理性はない。現在,総務省の有識者検討会においても,携帯電話の「二年縛り」の問題について議論されているが,最初の2年契約が満了すればいつでも無料で解約できるよう規制する案を打ち出しており,少なくとも,契約期間更新後は中途解約金を支払うことなく解約することを認めるべきである。
    したがって,電気通信事業者等が,契約の締結等を行うに際し,契約期間途中での解約を禁止する規定または損害実額を超える違約金を請求する規定を設けることを禁止すべきであり,少なくとも,契約期間更新後においては,中途解約金を支払うことなく解約できるよう規制する旨の規定を設けるべきである。

以 上

2014年(平成26年)9月11日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

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