2014.09.11

貸金業法の規制緩和に反対する会長声明

  1. 2014年4月現在、現行貸金業法の完全施行及び官民を挙げた多重債務対策の拡充により、当初200万人超存在した多重債務者は、約18万人に減少している。また、ヤミ金融被害対策埼玉弁護団へのヤミ金融被害の相談件数は、2003年の1982件(業者数8772件)をピークに、2013年には286件(業者数764件)と減少を続けている。
    このように、現行貸金業法の施行を中核とした多重債務対策は、現在、着実にその成果を上げている。
  2. このような中、一部政党は、貸金業法の規制を緩和する法改正について議論を開始しており、秋の臨時国会での議員立法での成立を目指している、と報道されている。改正の内容は、経営が健全な「認可貸金業者」に限り、金利規制を現行の年率20.0%から29.2%に引き上げ、貸付総額について収入の3分の1までに制限する総量規制を撤廃して貸金業者の自主規制に委ねるというものである。
    しかし、このような法「改正」は深刻な多重債務問題をいたずらに再燃させるものであり、当会としては断固として反対する。
  3. まず、年率29.2%もの高利による貸付自体、資金需要者の健全な事業及び生活を奪うもので是認できない。実際、一定の資産要件などを課す上記「認可貸金業者」の要件を充たすと思われる大手貸金業者が、返済金の大部分が利息に充当されてしまう年率29.2%という高金利で、過剰な融資をおこなった結果、経済生活苦自殺者・自己破産者・多重債務者の急増という多重債務問題が社会問題化したのは、周知の事実である。そして、この多重債務問題に対処するために、現行貸金業法は成立したものである。
    この経緯に思いを致せば、上記要件を設けたところで、高金利・過剰融資の復活及びそれに伴う多重債務問題の再深刻化を回避することができないことは明白である。
  4. また、今回の法改正は、上記のとおり、銀行融資を受けにくい中小零細企業などの資金調達ニーズに応える狙いがあるという。しかし、高金利による資金調達ニーズなどは存在しない。
    すなわち、金融庁が2014年2月に実施した中小企業の業況等に関するアンケートにおいて、各商工会議所が中小企業者の資金繰りが悪いと判断した要因としては、「(現行)貸金業法施行の影響」などは挙げられていない。これをみても、現行貸金業法を改正して中小零細企業の高金利による資金調達ニーズに応える必要性が存在しないことは明らかである。
  5. 以上のとおり、今回検討されている法改正は、その必要性が存在しないばかりか、むしろ、中小企業の資金繰りのさらなる悪化、ひいては破綻を招来するものであることは明らかであり、従前の多重債務対策の輝かしい成果を水泡に帰せしめるものである。経済的に逼迫した中小零細企業や一般市民を救済するには、今回のような法改正によるよりも、むしろ、低利融資制度やセーフティネットの拡充を図ることが肝要である。
  6. これまで、当会は、多重債務問題の解決に向けて、無料法律相談の実施やヤミ金融被害対策埼玉弁護団の活動のほか、消費生活センター等関係諸団体との連携の強化に継続的に取り組んできた。当会は、これら取組みをさらに発展させ継続させていくことをここに確認するとともに、多重債務問題の再燃を招来する高金利・過剰融資を復活させる今回の法改正には断固として反対する。

以 上

2014(平成26)年9月11日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

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