2014.10.09

司法予算の大幅増額を求める会長声明

  1. 2003年から2013年にかけて、弁護士は1万9,508人から3万3,642人(各年3月31日現在)へと1万4,134人増えたのに対し、裁判官(簡易裁判所判事を除く)は2,333人から2,912人へと579人しか増えていない。
    裁判官は忙しすぎて審理に十分な時間がかけられないことから、鑑定や検証、当事者尋問や証人尋問の実施率は減少傾向にある。また、裁判官の手持ち事件が多すぎるために、当事者が提出した準備書面等を読み込む時間が足りず、適切な争点整理がなされないことから、訴訟が遅延することもある。裁判所支部では、1人の裁判官が民事・刑事・家事の各事件を兼務することが多いため、裁判官の負担が重い。また、近時、家事については、成年後見開始の審判等が増加しており、裁判官や調査官が多忙となっている。
    最高裁判所は、家事が多忙になると他から人員を補充するなど、限られた予算の範囲内で効率的な審理の実現を志向しているが、これでは、抜本的な解決とはなりえない。全体としての裁判官の人数が増えれば、各事件において十分な審理が可能となり、裁判にかかる時間も短縮できるが、実現には至っていない。
  2. 1990年、地方・家庭裁判所支部41庁が近隣の裁判所に統合され、また、1988年から1994年にかけて、簡易裁判所139庁が近隣の簡易裁判所に統合された。この間、新設されたのは、地方・家庭裁判所支部、簡易裁判所それぞれ2つにとどまる。
    この結果、身近に裁判所がないために、遠隔地の裁判所に行くことができず、司法を利用して法的問題を解決しようとする契機が失われる市民も増加している。
    また、支部によっては、裁判官が常駐していないことから、開廷日が少なく、次回期日が2、3ヶ月後になることが常態であるというケースも存在する。
  3. 前記1・2の問題ゆえ、市民にとって、司法は、「費用も時間もかかり、利用しにくい存在」となっている。市民の裁判を受ける権利(憲法第32条)の保障という観点からも、このような現状は極めて遺憾と言わざるを得ない。 司法が抱えるこれらの問題を解消し、市民の裁判を受ける権利のさらなる充実を図るためには、司法の人的・物的基盤の大幅な拡充が必要であり、そのためには、司法予算の大幅な増額が必要不可欠である。
    しかしながら、最高裁判所が十分な予算要求をせず、政府・財務省も十分な予算措置を講じてこなかったため、近時の司法予算は、国の一般会計予算のわずか0.3%台で推移してきた。
    既になされた2015年度予算における最高裁判所の概算要求・要望額も、ほぼ前年並みの約3177億円にとどまっており、これでは、今後も司法の人的・物的基盤の整備を図ることは不可能である。また、当会が繰り返し訴えている裁判所速記官の養成再開、司法修習生の給費制復活はおよそ実現困難であるし、数年後には対象事件が大幅に拡大される被疑者国選弁護制度における弁護活動に見合った十分な報酬の確保も到底期待できない。
  4. 国家財政が悪化している現状においては、司法予算を大幅に増額することは難しいとの意見がある。
    しかし、司法予算は市民の裁判を受ける権利の保障を実現するために認められるものであり、予算が少ないことを理由に裁判を受ける権利の保障が後退することは本末転倒である。これまで、司法予算があまりにも少なかったため、市民が使い勝手の悪い司法を敬遠してきたのである。その改善を図り、市民の利用しやすい司法を実現するためには、国家財政の増減にかかわらず、司法予算の増額を図らなければならないはずであり、最高裁判所も現状より大幅な司法予算の増額が必要であることを強く社会に訴えるべきである。
  5. 埼玉県内に限ってみても、さいたま地方・家庭裁判所秩父支部に裁判官が常駐していないこと、管内人口が100万人を超える同越谷支部において合議事件や少年審判が実施されていないこと、労働審判や行政訴訟の実施がさいたま地方裁判所本庁のみに限られていることなど、市民の身近にあって利用しやすい司法の実現には程遠い状況と言えよう。
  6. これらの問題を解決するべく、司法予算の大幅な増額が必要である。 最高裁判所においては、2015年度予算から大幅な司法予算の増額を強く要求すべきであり、政府・財務省においては、それを受けて大幅な司法予算の増額を認めるべきである。

以 上

2014(平成26)年10月9日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

戻る