2014.11.13

特定秘密の保護に関する法律の即時廃止を求める会長声明

  1. 政府は、多数の国民世論を無視し強行採決を行い成立させた特定秘密の保護に関する法律(以下、「特定秘密保護法」という。)に関して、平成26年10月14日、特定秘密の保護に関する法律施行令及び特定秘密の指定及びその解除並びに適正評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準を閣議決定し、同年12月10日の特定秘密保護法施行に向けた準備を進めている。
    しかし、特定秘密保護法は、日本国憲法が掲げる国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の各原理に根本から反するとともに、国民の権利を広汎に侵害することが明らかである。
    当会は、平成25年11月1日、「特定秘密保護法制定に反対する会長声明」を発表したが、今改めて、特定秘密保護法の即時廃止を求め、声明を表する。
  2. 日本国憲法は、国民主権を基本原理として掲げるが、国民主権原理が機能するためには、国民が国政に関する情報にアクセスし、これを取得することが必要であり、その上で、主権者たる国民は、国政に関する情報に基づいて主権者としての意思を形成し、その意思に基づいて政治的決定はなされる。
    しかし、特定秘密保護法では、防衛、外交、有害活動、テロ活動という国民の重大な関心事に関する情報について、アクセスしたり取得したりする行為に対し、厳罰を課することで厳しく制限している。このため、主権者である国民が国政に関する情報を入手し、伝達することが極めて困難になる。
    この様な状況下では、政府による情報統制のもと、国民の重大な関心事について国民的議論を行うことができなくなり、国民主権の根本基盤を失わせることになる。
  3. 日本国憲法は、知る権利や取材・報道の自由を含む表現の自由(21条)、自己の情報をコントロールする権利であるプライバシー権を含む幸福追求権(13条)、内心の自由を保障した思想及び良心の自由(19条)を保障する。
    しかし、特定秘密保護法では、行政機関の長が特定秘密として指定すれば、それらの情報にアクセス、取得する行為は厳しく制限されることから、国民の知る権利や報道機関の取材・報道の自由が侵害される。特に、特定秘密として指定される秘密の内容が明らかにされないのであるから、政府にとっては特定の秘密であっても、国民にとっては不特定の秘密ということになり、委縮効果が大きく、表現の自由に対する広汎な侵害になる。
    また、特定秘密保護法における適正評価制度は、その審査対象者の範囲や審査内容に鑑みれば、プライバシー権、思想及び良心の自由を侵害することは明らかである。
    この様に、特定秘密保護法は、国民の重要な人権に対する広汎な侵害をもたらすものである。
  4. 日本国憲法は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやう」平和的生存権を定め、戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を定める徹底した非軍事恒久平和主義を掲げている。この崇高な理想と目的を達成するためには、国民が、防衛、外交など平和構築に関する情報にアクセスし、取得し、国民の監視と統制のもとに置くことが必要である。
    しかし、特定秘密保護法では、防衛に関する情報は、いかなる情報であっても特定秘密として指定できる扱いになっている。特に、政府は、集団的自衛権行使の判断の前提になる情報も特定秘密であると解していることも併せ考えれば、国民的議論が必要な防衛に関する情報が国民に知らされることはなくなり、この結果、国民が知らぬ間に「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こる」状態に陥る。
    この様に、日本国憲法が掲げる非軍事恒久平和主義を達成するためには、防衛に関する情報を、特定秘密として保護し、国民の監視統制を免れることを正当化することはできない。
  5. 政府は、行政の長による特定秘密の指定をチェックする第三者機関として、内閣保全監視委員会、独立公文書管理監、情報保全監察室などの設置を検討している。
    しかし、内閣の下に置かれる内閣保全監視委員会は、関係各省庁の次官により構成され、独立公文書管理監は内閣府の下に置かれ、同じく内閣府の下に置かれる情報保全監察室は各省庁の出向者により構成されるなど、いずれも政府内の組織として位置付けることができる機関であり、およそ政府から独立した第三者による適正なチェックが行われる体制にはなっていない。
    この様に、特定秘密保護法は、日本国憲法の各原則に反し、広汎な人権侵害をもたらす法であるにもかかわらず、これを防ぐためのチェック体制が整っておらず、基本的人権の尊重を掲げる日本国憲法に反する。
  6. 特定秘密保護法は、特定秘密に対するアクセス行為などに対し、厳罰を課していることから、国民は、何が秘密であるのか不明確なまま刑事訴追を受ける可能性がある。
    また、刑事裁判手続における特定秘密性の立証については、外形立証によることも検討されているが、被告人の防御権保障など適正手続として要請される刑事手続の諸原則に抵触する。
  7. 以上のとおり、特定秘密保護法は、日本国憲法が掲げる各原理に根本から反するとともに、国民の権利を広汎に侵害することが明らかであることから、即時廃止を求める。

以 上

2014(平成26)年11月13日
埼玉弁護士会会長  大倉 浩

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