2018.02.14

成年年齢を18歳に引き下げる民法改正案に反対する会長声明

政府は、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正案を国会に上程する方針を表明した。
しかしながら、成年年齢の引き下げに伴い予想される、18、19歳の若年者の消費者被害の拡大防止の具体的措置は講じられておらず、この現状において成年年齢を引き下げることには反対である。
民法は、将来の社会を担う未成年者を未成年者取消権により保護している。この未成年者取消権は、社会経験に乏しく判断能力も未熟な未成年者が不合理な契約を締結した場合に救済することを通じて、未成年者を消費者被害から保護するための極めて重要な手段として機能している。このことは、消費生活センター等に寄せられる相談の件数や内容が、19歳以下の未成年者から20歳の成年者になると急増することや、20歳の誕生日を待って取引の勧誘に及ぶ悪質な事業者が見られることから分かる。成年年齢を引き下げることは、これまで未成年者取消権により保護されていた18、19歳の若年者について未成年者取消権を喪失させることになり、ひいては消費者被害を拡大させることにつながる危険がある。
若年者に対する消費者被害増加を防止するためには、若年者に対するより一層の消費者教育の拡充が重要であるが、この点も現時点では、施策の実施は不十分である。
法制審議会平成21年10月付「民法の成年年齢引き下げに関する意見」は、成年年齢引き下げの法整備を行うには、「消費者被害の拡大の恐れ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である」とし、法整備を行う具体的時期は、関係施策の効果や国民の意識を踏まえて判断すべきである旨指摘した。しかし、消費者被害防止の法制度は講じられていない。また、内閣府世論調査によれば、一人で契約ができる年齢を18歳に引き下げることに反対する意見が、平成20年が78.8%、平成25年が79.4%であり、国民の意識は大多数が反対している状況である。
政府は、成年年齢引き下げに伴い、付け込み型勧誘による契約の取消権を消費者契約法に設けるものとしているが、これは不安を煽る行為や断りにくい関係を事業者が作出して付け込む類型に限定されており、消費者の判断能力等の不足に付け込む類型は含まれていない。この点につき、消費者委員会平成29年8月8日付答申書は、付言事項として「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる」類型の契約について取消権を付与することが喫緊の課題であると指摘した。つまり、政府の改正案は、政府内の専門機関が2度にわたって指摘した措置を講じていないのである。むしろ、改正案の審議に先立って、現時点で改めて世論調査を行うべきである。
したがって、当会としては政府が提案する成年年齢引下げ法案に反対である。

以上

2018(平成30)年2月14日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

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