2018.05.03

憲法記念日にあたっての会長談話

本日、日本国憲法が施行されてから71年目の憲法記念日を迎えました。

日本国憲法は、個人の尊厳を核心的原理とし(13条前段)、そのために基本的人権を侵すことのできない永久の権利と定めました(11条、97条)。また、この基本的人権の保障を図るために、国家権力を分立させ(41条、65条、76条)、憲法に反する一切の法律や行政行為等を無効とし(81条、98条)、内閣総理大臣その他の国務大臣をはじめとする公務員に憲法尊重擁護義務を課しています(99条)。
さらに、大日本帝国がアジア・太平洋戦争においてアジア諸国民等2000万人以上、日本国民310万人以上を死に追いやった惨劇を繰り返さないという痛切な反省のもと、日本国憲法では、全世界の諸個人が恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生存する権利を有することを確認すると共に、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という徹底した平和主義を基本原理として定めています(前文及び9条)。

今般、自民党は、憲法改正推進本部で昨年12月20日に①自衛隊の明記、②緊急事態条項の創設、③参院選の合区解消、④教育の充実・強化を重点4項目として論点取りまとめが行われました。2018年に入り、9条改正を含む重点4項目の「たたき台素案」をまとめ、同年3月25日に開催された自民党大会で、その方向性で国民的な議論を深めることを表明しました。自民党内で有力とされる憲法9条改正の具体的条文案は、9条1項・2項を維持した上で、新たに9条の2を設け、自衛隊を憲法上明記するというものです。
現政府は、長年維持されてきた、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとする従前からの政府見解を2014年7月1日の閣議決定によって変更しました。2015年9月19日にそれを具現化した安全保障関連各法律が成立し、2016年3月29日に施行されました。安全保障関連各法律は、本来、9条の改正手続を経て初めて制定可能となりうるものであって96条の改正手続を潜脱するものです。その上、集団的自衛権行使を含む安保法制の下では、自衛隊は必然的に外国の戦争に巻き込まれ、自衛隊員が外国で人を殺す危険性も高まります。このような状況は、現行9条2項を空文化することに繋がり、恒久平和主義という憲法の基本原理を破棄するに等しいものです。

2018年3月12日、財務省の報告により、学校法人森友学園への国有地売却に関する決裁文書14件について、削除等の改ざんがあったことが明らかになりました。また、南スーダンPKO派遣部隊の日報問題、陸上自衛隊のイラク派遣の日報問題など、公文書の作成、保存、管理、利用に関して次々に問題が生じています。
2011年4月に施行された公文書管理法第1条において、「公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定め、「国民主権の理念」にのっとり、「現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的」としています。 政府各部内での各問題は、公文書管理法の趣旨に反し、国民主権原理に全く適合しないもので、それは憲法の基本原理に基づく国政運営を求める立憲主義(憲法98条・99条等)に違背するものと言わざるを得ません。

当会では、2008年5月24日に「日本国憲法の平和主義を堅持することを求める決議」を採択し、2015年5月28日にも「集団的自衛権行使を容認する違憲な閣議決定の撤回を求め、安全保障法制の制定に反対する総会決議」を採択しました。また、同年9月19日には「違憲な安全保障関連法案の成立に断固抗議する会長声明」、同年10月14日には「緊急事態条項(国家緊急権)を新設する憲法改正に反対する会長声明」、2016年3月29日には「安全保障関連法の施行に抗議する会長談話」を発出するなど、日本国憲法の平和主義や立憲主義を堅持するための諸活動に取り組んできました。

そして、当会は、本日の憲法記念日に際し、憲法9条改正の動きについて、これまでの会の決議・声明などに照らし、恒久平和主義との関係で重大な疑問があることを指摘し、また、国民に対し必要かつ十分な国政情報が提供されておらず、十分な議論が尽くされていない中で進められようとしていることについて断固反対するものです。併せて、日本国憲法の平和主義や立憲主義、基本的人権を守る活動に全力を挙げて取り組むことを誓うものであります。

以上

2018(平成30)年5月3日
埼玉弁護士会会長  島田 浩孝

戻る