2018.07.31

原野商法二次被害の適正な取り締まりを求める要望書

原野商法二次被害の適正な取り締まりを求める要望書

平成30年7月31日

埼玉弁護士会 会長 島田 浩孝

第1 意見の趣旨

さいたま地方検察庁,埼玉県警察本部及び埼玉県警の所轄の警察署に対する原野商法二次被害の被害届,告訴並びに告発を受理し,適正な捜査を行い,原野商法二次被害を生み出している会社及び個人へ適切な処分を行うことを求める。

第2 意見の理由

  1. 原野商法二次被害の拡大
    1960年代から1980年代にわたり,何らの価値のないもしくは価値が非常に低廉な土地について,あたかも価値があるかのように装い,事情を知らない消費者に暴利とも言うべき高値で売りつける「原野商法被害」が多発した。
    そして昨今,原野商法被害により原野を買わされてしまった被害者もしくは被害者の相続人を対象に,「この(買わされた)土地を高く売却するためには,この土地に隣接する別の土地を買う必要があります。」などと言って更なる原野を売りつける,または「高く売却できる私の土地と交換しましょう。」といって土地を交換させ,その差額を支払わせる,さらには「この土地を売るためには測量が必要です。」として高額の広告費や測量費を請求するなどして,後記のとおり,詐欺罪等の犯罪行為ともなる手口にて金員を騙し取る商法,いわゆる「原野商法二次被害」による被害が顕在化している。
    独立行政法人国民生活センターの平成30年1月25日に発表された資料¹によれば,原野商法二次被害による被害相談件数は,2007年度には488件,2008年度には441件,2009年には373件,2010年度には446件,2011年度には780件,2012年度には745件,2013年度には1,032件,2014年度には1,088件,2015年度には847件,2016年度には1,076件,そして2017年12月31日まで相談件数は1,196件(前年同期の約1.8倍,前年度同時期の相談件数は662件)となっている。
    被害金額についても,上記独立行政法人国民生活センター発表資料によれば,平成29年度の被害総額は20.7億円にのぼり,同年度の1件当たり平均の被害金額は470万円となっている。
    1件当たりの平均の被害金額については,平成26年度よりも2.5倍となっており,上記の相談件数の増加と併せて,被害の質及び量ともに極めて深刻化している状況である。
    また,被害者の年代としては70歳代が約4割を占め,もっとも多くなっている。そして全体を見ても,60歳以上が約9割を占めており,被害者の多くが高齢者であって,老後のための生活資金を騙し取られている現状である。
    そして,被害金額の回収については,収奪された金銭が速やかに隠匿されてしまうため,極めて困難となっており,被害者の大多数が泣き寝入りを強いられている状況である。
    以上のような状況のため,埼玉県²や京都府³,その他多くの地方自治体⁴において,原野商法二次被害についての注意喚起が行われており,また日本経済新聞平成30年5月25日付でも「原野商法膨らむ二次被害処分焦る高齢者標的に」と題して,主に高齢者が現金を騙し取られているとの報道がなされている。
  2. 原野商法二次被害の犯罪性
    平成28年3月23日には奈良地方裁判所において,原野商法二次被害を生み出していた会社の実質的経営者に対して,組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)などの罪が認められ,懲役3年の実刑判決が下されている。
    加えて,平成28年11月29日にはさいたま地方裁判所川越支部において,原野商法二次被害の手口について,詐欺行為であるとの認定がなされた判決も下され(さいたま地方裁判所川越支部平成27年(ワ)第106号事件),その後も同様に詐欺であるとの認定がされた判決が相次いで下されている。
    また,原野商法二次被害における勧誘行為は,実際には消費者からの来訪要請を伴わない訪問販売の形式でなされているにもかかわらず,原野商法二次被害で用いられている契約書上,宅地建物取引法上も特定商取引法上もクーリングオフができない旨が記載されている事案も存する。かかる記載は宅地建物取引法や特定商取引法上の書面交付義務違反に該当する。
    さらに,原野商法二次被害で用いられている契約書では宅地建物取引士の氏名及び登録番号が記載されていることが通常である。しかし,当該契約書に記載されている宅地建物取引士は,実際には当該契約に何ら関与していない場合が存在する。かかるケースでは宅地建物取引士の名義が当該宅地建物取引士の許諾を得ないまま冒用されており,私文書偽造・同行使罪に該当する。
  3. 原野商法二次被害に対する埼玉県警察本部の対応
    以上のような原野商法二次被害は,埼玉県内において急速に拡大している。埼玉県が平成29年7月20日にリリースした県政ニュース⁵によれば,平成28年度の原野商法二次被害の件数は141件であり,平成27年度の2倍に膨れ上がっている。
    埼玉県内において,原野商法二次被害が拡大し,深刻な被害を生み出しているにもかかわらず,埼玉県警察本部は原野商法二次被害を生み出している会社,会社代表者及び勧誘を行った者らの取り締まりが適正になされていない状況にある。
    例えば,埼玉弁護士会所属の有志の弁護士が,平成29年11月13日に原野商法二次被害を生み出している会社,会社代表者及び勧誘を行った者らを被告発人として,埼玉県警察本部に告発を行おうとしたが,埼玉県警察本部は本件告発にかかる告発書を受け取ることはなく,現在に至るまでこれらのどの事案についても捜査は開始されていない。
    また,税金対策名目にて契約をさせられた原野商法二次被害者から,さらに現金を収奪しようとした会社の従業員が確定申告の必要性もないにもかかわらず,「土地の固定資産税の評価額が思ったよりも低かった。そのため,さらに税金がかかる。」「今確定申告の時期で,確定申告の期限までに申告をしないと追徴課税がかかる。そのため,さらに追加で現金を弊社に預けてほしい。」などと虚偽の事実を述べ,金銭を騙しとろうとした勧誘の現場を録画した動画が存する事案においても,現在に至るまで被害届すら受理されていない状況である。
  4. 求める対応
    以上のとおり,原野商法二次被害の被害者の9割が高齢者であり,かつ,被害回復が事実上困難になっていることに鑑みれば,原野商法二次被害による被害の質・程度は極めて深刻なものである。
    原野商法二次被害に対する適正な取り締まりがなされなければ,極めて深刻な被害をもたらす原野商法二次被害に歯止めがかからず,ますます拡大していくばかりである。
    そのため,埼玉弁護士会は,さいたま地方検察庁,埼玉県公安委員会及び埼玉県警察本部に対し,埼玉原野商法二次被害の被害者の救済もしくは被害防止のため,意見の趣旨記載のとおり,原野商法二次被害に関する被害届,告訴並びに告発を受理し,適正な捜査を行い,原野商法二次被害を生み出している会社及び個人へ適切な処分を行うことを求める次第である。

以上

[1] 独立行政法人国民センター「より深刻に!「原野商法の二次被害」トラブル -原野や山林などの買い取り話には耳を貸さない!契約しない!-」平成30年1月25日
[2] 埼玉県「原野商法の二次被害にご注意ください」平成30年3月6日
[3] 京都府「昔買った土地を売らないかといわれて(原野商法の二次被害)」
[4] 例えば,千葉県八千代市,東京都北区など
[5] 埼玉県「平成28年度埼玉県消費生活相談年報まとまる ~健康食品等の定期購入に関する相談が2年連続で倍増~」平成29年7月20日

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