2018.08.02

死刑執行に抗議する会長声明

  1. 本年7月26日、上川陽子法務大臣の命により、東京拘置所等全国3か所の拘置所において、合わせて6人の死刑確定者に対する死刑の執行がなされた。この6人は、旧オウム真理教元幹部であり、「地下鉄サリン事件」などの一連の事件の刑事裁判で死刑判決を受けていた人々であった。
    本年7月6日には、同じく旧オウム真理教元幹部7人の死刑が執行され、それに続けて今回6人もの死刑執行が行われた。
  2. 当会は、7月6日の死刑執行後、日本政府に対して、究極の人権侵害制度である死刑の廃止に向けた全社会的議論を主導すること、その間においてはすべての死刑執行を停止することを強く求めたばかりである。それにもかかわらず行われた今回の死刑執行に対しては、満腔の怒りを込めて抗議する。
    1. そもそも、現に生きて存在する諸個人は多様で個性に充ち、憲法はそのような個人に人間社会の根源的価値をおく(憲法13条前段・個人の尊厳)のであるから、重大事件の加害者に限って存在することを認めない死刑は、この憲法の核心原理と相いれないのである。とりわけ、「生命・・・に対する国民の権利」(憲法13条後段)は、他の基本的人権享有の大前提であり、その剥奪はすべての権利・自由の剥奪を必然にもたらす。その意味で、国家が諸個人の生命権を剥奪する死刑という刑罰は、究極の人権侵害制度といわねばならない。
      そのような認識のもと、1989年の国連総会での死刑廃止条約採択以降、今日では死刑廃止が国際的潮流であり、この間、日本政府は、国連人権理事会等から、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討すべきであるとの勧告等を受け続けていた。
      また、7月6日の死刑執行に対しては、欧州連合(EU)の駐日代表部及びEU加盟国等の駐日大使が共同声明を発出した。同声明は、いかなる状況下での極刑の使用にも強くまた明白に反対し、全世界での廃止を目指していること、死刑は残忍で冷酷であり、犯罪抑止効果がないこと、どの司法制度でも避けられない過誤は極刑の場合は不可逆であることを指摘した。その上で、日本政府に対し、死刑を廃止することを視野に入れたモラトリアム(執行停止)の導入を呼びかけた。さらに、今回の死刑執行に対しても同様の共同声明が発出されている。
    2. 日本弁護士連合会は、2016年10月7日開催の第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、日本政府に対し、日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すことなどを求めた。そして、同採択の後、これを実現するため死刑廃止等実現本部を設置した。これに呼応して当会も、死刑廃止実現プロジェクトチームを設置して市民集会を開催するなどして、死刑廃止に向けた全社会的議論を呼びかけてきた。
    3. しかしながら、日本政府は、上記のような国際機関や日弁連の勧告等を顧みることのないまま、7月6日に7人、今回6人、合わせて13人もの死刑確定者に対する執行をしたもので、これは、憲法の人権尊重主義や国際協調主義(98条2項)に反し、厳しく批判されなければならない。
  3. 以上から、当会は、重ねて、日本政府に対し、今回の死刑執行に抗議すると共に、究極の人権侵害制度である死刑の廃止に向けた全社会的議論を主導すること、その間においてはすべての死刑執行を停止することを強く求める。

以上

2018(平成30)年8月2日
埼玉弁護士会会長  島 田 浩 孝

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