2016.03.31

死刑執行に対する会長声明

  1. 2016年3月25日,死刑確定者2名に対して死刑が執行された。
    第二次安倍政権では,9度目,合計16名の死刑が執行されたこととなる。
    当会は,この死刑執行に対し,強く抗議するものである。
  2. 言うまでもなく,1989年にf死刑廃止条約」が国連で採択されている。今日に至っては死刑制度の廃止こそが疑うことない国際的潮流となっている。
    また,この間,日本政府は,国連から,死刑廃止を検討するようにとの勧告を度重ねて受けているところである。2013年5月31日には,国連拷問禁止委員会から,「死刑制度を廃止する可能性についても考慮するよう」勧告を受けている。さらに,2014年7月24日には,国連人権(自由権)規約委員会から,「死刑廃止を十分に考慮すること」との勧告を受けた。
    それにもかかわらず,政府は,かかる勧告を無視するかたちで執行を断行したのである。
  3. 日本弁護士連合会は,2011年10月7日開催の人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択した。同宣言を踏まえて日弁連は,2015年12月9日,岩城法務大臣に対し「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出した。
    当会においても,これまで繰り返し政府に対し,死刑制度に対する国民的議論を尽くし,その議論の集約が十分にできるまで再び死刑を執行することないよう強く求め続けてきた。去る2016年2月3日にも,当会では,長塚洋監督のドキュメンタリー映画「考え悩む『世論』死刑とは,司法とは」の上映会を開催した。同作品は,「熟慮」に基づく意見を引き出すため,市民が集まって専門家による情報提供を受け,相互に意見を述べ合い,時間をかけてひとつのテーマについて討議し,その意見の変化を明らかにする調査研究方法である,「審
    議型意識調査」を取り上げたものである。死刑制度の存続について審議するために集まった参加者が,冤罪,死刑,犯罪の加害者とその更生,犯罪被害者・遺族などの問題について様々な情報に触れ,考え,揺らぐ姿が,同作品で正にとらえられているのである。
    このように,究極の刑罰である死刑については,時問をかけ,特に慎重に,様々な方法で全社会的な議論を尽くす必要がある。
    それにもかかわらず,岩城法務大臣は,十分な議論をしないまま,約4カ月の間に,2度の死刑執行をしており,人の生命を軽視した暴挙と言わざるを得ない。
  4. わが国では死刑事件について4件の再審無罪判決(免田・財田川・松山・島田各事件)が確定しており,死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。死刑は,かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であり,死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと,取り返しのつかない結果を招くということを再認識しなければならない。今回,死刑が執行された内の一人は,公判において無罪を主張しており,もう一人は,死刑判決確定後,再審請求を行っていたものの,昨年棄却されていたと伝えられている。死刑確定者が争う姿勢をとっていた事件であり,より慎重な対応が求められるはずであるにもかかわらず,議論をつくさないままでの早急な死刑の執行は,人命軽視も甚だしく,極めて遺憾である。
  5. 以上から,当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,改めて政府に対し,死刑廃止に向けた全社会的な議論を行うこと,及び上記議論が尽くされるまでの間,全ての死刑の執行を停止することを強く求める。

以上

2016(平成28)年3月31日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

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