2016.04.25

家族に関する民法の差別的規定の早期改正を求める会長声明

2016(平成28)年4月25日
埼玉弁護士会会長 福地 輝久

  1. 最高裁判所大法廷判決の要旨
    2015(平成27)年12月16日,最高裁判所大法廷は,女性のみに6か月の再婚禁止期間を定める民法第733条について,「本件規定のうち100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとなっている」として,同条は憲法第14条1項及び同第24条2項に違反している旨判示した。一方,同日,最高裁判所大法廷は,夫婦同姓を強制する民法第750条について,「婚姻の際に『氏の変更を強制されない自由』が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。」,「夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。」,「夫婦同氏制が,夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても,(中略)個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。」などとして,同条は憲法第13条,同第14条1項,同第24条に違反していないと判示した。
    当会は,最高裁判所大法廷が民法第733条を違憲とした点については妥当なものであると評価する。ただし,再婚禁止期間を設けること自体を違憲としなかったことは,以下で述べるように大いに問題であると言わざるを得ない。他方,民法第750条についての判断は,極めて不当と言わざるを得ない。
  2. 民法の差別的規定の改正を求める動き
    日本政府は,国連の自由権規約委員会及び女性差別撤廃委員会から,上記民法第750条及び同第733条のほか,婚姻適齢について男女の差を設けている民法第731条について,繰り返し懸念を表明され,これらの女性差別的規定の改正に向けて早急な対策を講じるよう要請されている。婚姻適齢については,女性差別撤廃委員会に加え,児童の権利委員会からも婚姻適齢を男女ともに18歳に引き上げるよう勧告が出されている。
    1996(平成8)年に,当時の法務大臣の諮問機関である法制審議会が,これらの条文を改正すべきとする民法改正案要綱を決定してから,すでに20年もの年月が経過しているにもかかわらず,民法改正は実現していない。2010(平成22)年1月には,法務省が上記要綱と同趣旨の法律案を準備したものの,同法律案を国会に提出するための閣議決定は行われていない。
    当会も,2013(平成25)年9月19日,民法第731条,同第733条及び同第750条の規定について,速やかに民法の改正を求める会長声明を出してきた。
  3. 夫婦同姓強制について
    民法第750条は,婚姻時に夫婦の「いずれかが」姓を変更して同一姓を名乗るべきものと規定し,その文言上は特段一方の性のみに改姓を強制していない表現となっている。しかしながら,現実には9割を超える女性が婚姻に際し改姓を余儀なくされ,職業上,社会生活上さまざまな不利益や不都合を被っている。夫婦同姓の強制は,実質的に男女間の不平等をもたらす結果となっており,男女平等と男女共同参画社会の実現の妨げとなっている。
    この点について,岡部喜代子裁判官(櫻井龍子裁判官,鬼丸かおる裁判官及び山浦善樹裁判官が同調)は,「96%もの多数が夫の氏を称することは,女性の社会的経済的な立場の弱さ,家庭生活における立場の弱さ,種々の事実上の圧力など様々な要因のもたらすところであるといえるのであって,夫の氏を称することが妻の意思に基づくものであるとしても,その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しているのである。そうすると,その点の配慮をしないまま夫婦同氏に例外を設けないことは,多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ,また,自己喪失感といった負担を負うこととなり,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない。」として,憲法第24条に違反すると述べている。この意見の趣旨は,当会としても傾聴すべきものとして支持したいと考える。
    したがって,当会は,男女平等及び男女共同参画社会の実現のため,法制審議会の答申に従って民法第750条を改正し,選択的夫婦別姓制度を導入すべきであると考える。
  4. 再婚禁止期間の撤廃
    上記最高裁判所大法廷の判決を受けて,内閣は,2016(平成28)年3月8日,再婚禁止期間を100日に短縮するとともに,離婚時に妊娠していないことが証明された場合には,再婚禁止期間の適用を除外する旨の民法改正案を閣議決定した。しかし,この改正案は,離婚した女性に対して,再婚を100日間待機させるという制限の代わりに,民法第733条1項の適用除外事由を証明させるという制限を課すだけであり,離婚した女性全員に対して負担を強いることには変わりがない。このように再婚を原則として100日間禁止とし,例外である適用除外事由を拡大する方法は,婚姻の要件に関連する重要な規定が国民にとって一義的に明らかにならず,妥当ではない。
    そもそも父性の推定の重複を避ける手段は再婚禁止期間を設けることが唯一の方法ではない。重複する場合に前婚の夫又は後婚の夫の子とする規定を設ける方法もある。この方法であれば,離婚した女性に対して負担を課さずに,法律上の父が未定という状態が避けられる。 このように,父性の推定の重複を避けるという立法目的を実現する手段として,より制限的ではない手段があることから,女性のみに再婚禁止期間を設けること自体が,必要最小限にしてやむを得ないとはいえず,憲法第14条1項及び同第24条に反して違憲である。
    したがって,当会は,民法第733条を改正し,再婚禁止期間を撤廃すべきであると考える。
  5. 婚姻適齢について
    民法第731条は,男女の婚姻適齢に2年の年齢差を設けている。その理由は,女性の方が,肉体的・精神的成熟が早く,統計的にも早婚であるからとされている。しかし,民法第753条により,婚姻した未成年者は成人に達したとみなされることから,婚姻をするには,肉体的・精神的成熟だけでは足りず,社会的にも経済的にも自立していることが求められる。この社会的・経済的成熟度に男女間で有意な差があると示す根拠はなく,婚姻適齢について男女差を設けることに合理的な理由はない。したがって,婚姻適齢について男女差をもうけることは,憲法第14条1項,同第24条に違反することは明らかである。
    そして,婚姻による成年擬制の制度が採用されており、婚姻時には男女ともに社会的,経済的成熟度が求められていることや、国連の女性差別撤廃委員会、児童の権利委員会及び法制審議会の答申が婚姻適齢を18歳とすべきとしていることなどに鑑み、当会としても、婚姻適齢は男女ともに18歳とすることが相当と考える。
    したがって,当会は,民法第731条についても,法制審議会の答申に従って,婚姻適齢を男女ともに18歳とする改正を行うべきであると考える。
  6. よって,当会は,男女平等と男女共同参画社会の実現のため,民法第731条,同第733条,及び同第750条を改正し,選択的夫婦別姓制度の導入,再婚禁止期間の撤廃,婚姻適齢の男女平等化を重ねて強く求める。

以上

戻る