2016.05.17

労働時間規制を緩和する改正法案の廃案を求める会長声明

  1. 2015(平成27)年4月3日、政府は、「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)を閣議決定し、通常国会に上程した。その内容は、①「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」を創設し、対象労働者について、労働基準法で定める労働時間並びに時間外、休日及び深夜の割増賃金等に関する規定を一切適用しないものとすること、②企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大すること、③フレックスタイム制の清算期間の上限を1か月から3か月に延長することを主とするものである。
    この改正法案は、2015(平成27)年度の国会では結局審議入りしなかったものの、政府は、引き続き改正法案の成立に対して強い意欲を示しており、今後の国会での審議が予定されている。
  2. しかしながら、改正法案が目指す労働時間規制の緩和は、現在も蔓延している長時間労働の問題を、さらに深刻化させる危険性を有している。
    すなわち、①「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」は、対象労働者に対して残業代を全く支払わずに、無制限に労働をさせる「定額働かせ放題」を可能にする制度である。このような制度を導入すれば、長時間労働に対する歯止めをかけることができなくなり、さらなる長時間労働を助長させることが明らかである。
    また、②裁量労働制の改正により追加される対象業務は、いずれも定義があいまいであり、解釈によって極めて広範囲の業務が対象とされるおそれがあるから、改正法案は、さらなる長時間労働を助長する危険性を有している。
    さらに、③フレックスタイム制に関しても、清算期間が1か月から3か月へと長くなれば、たとえば繁忙期のみ過労死水準を超える労働をさせたとしても、それ以外の月の労働時間を減らせば割増賃金が全く支払われなくなるなど、1日や1月当たりの労働時間に偏りが生じ、長時間働く日が増加しやすく、長時間労働が助長される結果となりかねない。
    これらの具体的な問題点について、当会は、2015(平成27)年3月19日付け「『今後の労働時間法制等の在り方について』(報告)に基づく法制化に対して断固反対する意見書」において詳細に論じ、改正法案の目指す内容に反対する意見を述べていたところである。
  3. 昨今、日本では、長時間労働を原因とする過労死、過労自殺、過労うつが深刻な社会問題となっている。こうした中で、2014(平成26)年には、過労死等防止対策推進法が制定されるなど、労働者の生命や健康、ワークライフバランス保持、過労自殺及び過労死防止の観点から、長時間労働を抑止・解消することが、喫緊の課題となっている。実際、今回の改正法案も、働きすぎ防止のための法制度の整備を目的の一つとして掲げていたはずである。
    そうであれば、労働時間の量的上限規制や休息時間(勤務間インターバル)規制のような、労働時間を直接規制し、長時間労働を抑制する実効的な制度こそが導入されるべきである。
    しかし、改正法案の内容は、上記で述べたように、長時間労働をますます助長させ、労働者の生命と健康を脅かす。これは、労働者の生命・生活の保護を目的とした労働時間規制の趣旨に反し、2014(平成26)年に制定された過労死等防止対策推進法の理念にも反するものであって、長時間労働の抑止・解消を目指す現在の情勢とは、真っ向から矛盾した法案である。
    よって、当会は、労働時間規制を緩和する改正法案を直ちに廃案にすべきと考える。

以上

2016(平成28)年5月17日
埼玉弁護士会会長  福地 輝久

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