2016.10.12

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

  1. 2016(平成28)年7月28日、中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、今年度地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行った。その内容は、今年度の最低賃金の引き上げの目安額を全国の加重平均額で24円とするもので、埼玉県の目安はBランクの24円とされている。
    当該決定を受け、各都道府県の最低賃金審議会が地域毎の引き上げ額の答申をしており、埼玉最低賃金審議会は引き上げ額を25円(目安額から1円上乗せ)とする答申をしている。埼玉労働局長は、これを受け、同年9月1日に最低賃金額を845円(引き上げ額25円)と決定した。なお、全国平均は823円にとどまっている。
    上記決定に当たり、当会は、中央最低賃金審議会、埼玉最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し、今後、早急に最低賃金額の大幅な引き上げを内容とする答申をし、決定することを求める。
    理由は以下のとおりである。
  2. 我が国における最低賃金制度とは、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上」等を目的とするものである(最低賃金法第1条)。しかしながら、今回の最低賃金の引き上げ額は、「労働者の生活の安定」にも「労働力の質的向上」にも繋がるものではなく不十分と言わざるを得ない。
    すなわち、823円(全国平均)という水準では、フルタイム(1日8時間、週40時間、年間52週)で働いても、年収171万1840円(月収約14万2653円)にしかならず、いわゆるワーキングプアのラインとされる年収約200万円(時給換算で約1000円)に遠く及ばない。そして、全国平均を上回る埼玉県(全国4位)の水準である845円で計算したとしても、年収175万7600円(月収約14万6466円)にしかならないのである。
  3. 先進諸外国の最低賃金と比較しても、フランスは9.67ユーロ(約1219円)、イギリスは7.2ポンド(25歳以上。約1151円)、ドイツは8.5ユーロ(約1071円)であり、アメリカでも15ドル(約1688円)への引き上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州を始め最低賃金を大幅に引き上げる動きが広まっているのに対し(円換算は2016(平成28)年4月上旬の為替レートで計算)、日本の最低賃金は未だ低水準のまま推移している。
  4. 最低賃金周辺の賃金水準で働く労働者層の中心は非正規雇用である。非正規雇用は、全雇用労働者の4割にまで増加し、特に女性の割合が高く、若年層で急増している。しかも、家計の補助的立場ではなく、自らの収入で家計を維持しなければならない非正規労働者が大きく増加している点を見過ごしてはならない。貧困率が過去最悪の16.1パーセントまで悪化し、深刻化している貧困問題を解決するためにも、最低賃金の大幅な底上げが必要なのである。
  5. また、2010(平成22)年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」においては、2020(平成32)年までに「全国平均1000円」にするという目標が明記されており、当該目標は現在も維持されている。
    当該戦略は目標到達までに猶予期間を設けているが、仮に同目標に従ったとしても1年あたり36円(820円であった最低賃金を5年で1000円とする場合の計算)以上の引き上げが必要となるため、今回の中央最低賃金審議会が定めた目安額(24円)、埼玉最低賃金審議会の答申(25円)及び埼玉労働局長の決定額(25円)は、いずれも政府の方針にもとることとなる。
    むしろ、ワーキングプアの水準に遠く及ばない現状の最低賃金水準に鑑みれば、猶予期間を設けること自体が「労働者の生活の安定」や貧困問題の解決を遅らせるものと言わなければならない。
  6. 以上より、当会は、最低賃金制度の趣旨及び前記閣議決定の方針に則り、中央最低賃金審議会、埼玉最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し、全国平均1000円の実現に向けて、早急に最低賃金額の大幅な引き上げを内容とする答申をし、決定することを求める。

以上

2016(平成28)年10月12日
埼玉弁護士会会長  福地 輝久

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