2015.10.14

消費者契約法改正中間とりまとめに対する意見書

2015年(平成27年)10月14日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

現在,内閣総理大臣からの諮問を受けて,内閣府消費者委員会に「消費者契約法専門調査会」が設置され,消費者契約法の見直しに向けた調査・検討が行われ,中間とりまとめが公表されたところであるが,中間とりまとめにおいては,消費者被害を事前に防止するための方策及び消費者被害救済のために必要な方策につき,消費者被害の実情に即した整理が行われているか否かという視点から不十分と考えられる点が散見されることから,より実効的な法改正を行うため,以下のとおり,消費者契約法の実務上の問題点を踏まえ意見を述べる。

第1「第2 総則」について

1「1.「消費者」概念の在り方(法第2条第1項)」について

【意見の趣旨】

中間取りまとめは,形式的には事業者間契約であっても,一方当事者を「消費者」として保護すべきと考えられる場合について5つに分類し,そのうち,団体が実質的には消費者の集まりである場合については法改正して消費者概念を拡張することも検討していく,と整理しているが,消費者契約法の趣旨に鑑みれば,事業者間の契約のうち保護すべき場合を当該場合に限定する必要はなく,客観的・形式的には事業者間の契約であっても実質的に消費者契約と同視できるあるいは準ずる程の格差がある場合については,法改正し,当該契約について消費者概念を拡張し保護することを検討するべきである。

【意見の理由】

消費者契約の,消費者と事業者との間に存する交渉力・情報の量・質の格差を考慮して消費者の利益を図るという趣旨・目的に照らすと,客観的・形式的には事業者間の契約であっても,実質的に消費者契約と同視できるあるいは準ずるほどの格差がある場合には,当該契約については「消費者」として保護されるべきである。したがって,相手方事業者との実質的な格差の有無・程度を考慮し,「消費者」概念は広げられるべきである。このような観点からすれば,①不当勧誘による当該契約以外に事業者性を基礎付ける事情がない場合,②事業の実体がない場合,③自己の事業に直接関連しない取引を行う場合,④形式的には事業者に該当するが,相手方との間に消費者契約に準ずるほどの格差がある場合,についても,当該契約については,相手方事業者との関係で「消費者」として扱う旨の規定を置くべきである。
消費者概念の拡大については懸念もあるが,立証責任の配分や要件の規定の仕方などにより,法の適用範囲の不当な拡大は回避できると考えられる。この点は,法的安定性や保護の必要性の大小に応じて,慎重に検討されるべきである。

2 「4.消費者の努力義務(法第3条第2項)」について

【意見の趣旨】

消費者の努力義務について定める法3条2項の規律を削除すべきである。

【意見の理由】

中間取りまとめでは,消費者の努力義務について定める法3条2項の規定について削除しないとすることが適当,との方向性が示されたが,法3条2項があることによって,現在,法3条2項の趣旨を理由に消費者側に過失相殺を認めた裁判例も出されているという状況がある。 消費者契約法の規定の趣旨が,消費者と事業者との情報・交渉力の格差が構造的に存在することが自己決定原則の妥当にとっての障害であり,それを是正するための民事ルールを置く点にあることからすれば,消費者に自己責任を求め努力義務を置くことは,消費者契約法の立法目的と相容れないといわざるを得ない。さらに,消費者の情報収集能力には時間的・能力的限界が存することも併せて考えると,法3条2項は削除するべきである。

第2 「第3 契約締結過程」について

1「2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号)」について

【意見の趣旨】

中間取りまとめでは,財産上の利得に影響しない事項が問題となる典型的な事例として,①痩身効果や成績の向上その他の商品・役務の客観的な効果・効能が問題となる事例と,②運命・運勢などの客観的でない効果・効能が問題となる事例に分類し,①については,現行法上の不実告知として捉えられる場合もあると考えられるとする。また,②については,消費者の心理状態を利用して不必要な契約を締結させた場合に問題となることが多いことから,そうした場合に対処することができる規定を設けることを検討することとするのが適当であるとし,それでもなお財産上の利得に影響しない事項や将来における変動が問題とならない事項についても対象にする必要性があると考えられる場合には,その方策を検討すべきと整理しているが,法改正し,財産上の利得に影響しない事項も断定的判断の提供の対象となる事項に含むことを明確にするよう検討するべきである。

【意見の理由】

消費者は,事業者から,不確実な事項についてそれが確実だと断定するような不適切な情報提供行為による勧誘を受けると,契約を締結するか否かの意思決定に影響を受けやすい。この場合には断定的判断の提供の適用を認め,消費者を救済すべきであり,財産上の利益に影響する事項に限定する合理的な理由はない。
確かに,財産上の利得に影響しない事項が問題となる,商品・役務の客観的な効果・効能が問題となる事例や,客観的でない効果・効能が問題となる事例について,不実告知の規定の適用や,消費者の心理状態を利用して不必要な契約を締結させた場合対処することができる規定を設け,これを適用することで対処できる場合もある。しかし,個別の事案において,消費者が,事業者から,不確実な事項についてそれが確実だと断定するような不適切な情報提供行為による勧誘を受けた場合に,これが不実告知等の要件に該当しなかった場合には,事業者の不適切な勧誘行為がありながら消費者が保護されないことになり妥当でない。断定的判断の提供や不実告知等の複数の規定が存在する方が,より消費者の利益に資するといえる。
したがって,財産上の利得に影響しない事項も断定的判断の提供の対象とする必要性がある。そして,その方法については,条文の文言のみで明確に判断できるよう,法改正を行うべきである。

2「5.不当勧誘行為に関するその他の類型」について

 (1) 困惑類型の追加

【意見の趣旨】

困惑類型の取消しの対象として,現行法の不退去(法4条1号)と監禁(同条2号)以外に,「執拗な勧誘」と「威迫」を規定すべきである。

【意見の理由】
  1. 中間取りまとめでは,「執拗な電話勧誘」の規制につき,特定商取引法の改正論議に注視しつつ検討すべきとしている。
    執拗な電話勧誘行為の有害性の本質は,消費者が,消費者契約を締結しない旨の意思を示し,又は,当該勧誘の継続を希望しない旨を伝えたにもかかわらず,当該勧誘を継続することにより,消費者を困惑させ,自由な意思決定をゆがめることにあり,困惑取消の対象とすべきものである。かかる困惑類型は,事業者による自宅への執拗な訪問など多岐にわたり,被害の相談事例も多数存在するため,対象類型を電話勧誘のみに絞るべきではない。
    したがって,特定商取引法の議論に収斂されるものではないため,別途,「執拗な勧誘」につき困惑類型の取消しの対象として消費者契約法における規定を検討すべきである。
  2. 「威迫」による勧誘については,中間取りまとめの方向性に賛同する。すなわち,「威迫」(脅迫に至らない程度の人に不安を生じさせる行為)によって消費者が困惑し,契約を締結した場合について,消費者の保護を図る観点から,適用範囲を明確にしつつ取消事由として規定することが適当である。

(2) 不招請勧誘

【意見の趣旨】

特定商取引法の改正論議に注視しつつも,不招請勧誘により消費者が被った損害に関する事業者の損害賠償義務を規定するなど,消費者契約法上違法であることを明記すべきである。

【意見の理由】

消費者の意向を無視した電話勧誘や訪問勧誘,パソコンや携帯電話への勧誘メールの送付といった,いわゆる不招請勧誘は,消費者契約被害の温床となっているばかりでなく,それ自体が消費者の私生活の平穏を侵害する類型的な不当勧誘行為である。不招請勧誘について,消費者契約法において,私法上も違法な行為であることを明らかにし,消費者に救済手段を与える必要性は高い。個々の被害者に救済手段を与える必要もある。
したがって,特定商取引法の論議にも注視しつつ,不招請勧誘が消費者契約法上も違法であることを明記する規定(たとえば,不招請勧誘により消費者が被った損害に関する事業者の損害賠償義務を規定するなど)を設けることを検討すべきである。

(3) 合理的な判断を行うことができない事情を利用して契約を締結させる類型

【意見の趣旨】

事業者が消費者の判断力の不足等を利用して不必要な契約を締結させる事例について,一定の手当てを講ずる必要性があるとしたことについては,極めて適切なことではあるが,同手当てとして,被害の実情を考慮し,被害の救済に資する実効性ある内容となるように検討されるべきである。

【意見の理由】

高齢者等に対する被害は,未だ多数存在し,その多くが,消費者の判断力不足や心理的な状態(不安を煽るなど)を利用したものであることからして,これら被害を生じさせている事業者への規制,及び,被害救済が必要であることは明らかである。そして,かかる規定は,高齢者等の勧誘に対する再現困難性なども考慮し,実効性あるものとならなければ意味がない。
したがって,被害実情を充分に考慮し,当該被害類型に即した規定となるように検討すべきである。

3「7.取消権の行使期間(法第7条第1項)」について

【意見の趣旨】

短期の行使期間を5年,長期の行使期間を20年とする考え方を,選択肢から除外すべきでない。

【意見の理由】

中間取りまとめにおいては,消費者契約法専門調査会会議のまとめとして,行使期間を長期に考える見解として,短期の行使期間を3年,長期の行使期間を10年とする見解が挙げられるにとどまっている。
しかし,消費者契約被害の相談や発見が遅れがちな理由としては,中間取りまとめで紹介されているような「騙されて恥ずかしい」等の消費者心理のほかに,事業者と消費者との間の実質的な支配関係等により,被害の発見自体が遅れることなども考えられる。
対等な当事者関係を前提とする民法とは異なる消費者契約の側面を重視する必要もあり,消費者契約法上の取消権の行使期間が,民法上の期間制限と平仄をあわせる必要はない。
したがって,民法改正論議における取消権の行使期間に拘束される必要はなく,短期の行使期間を5年,長期の行使期間を20年とする見解を,消費者契約法改正論議から放逐すべきではない。

4「8.法定追認の特則」について

【意見の趣旨】

中間とりまとめ案は,消費者契約法において特に問題となると考えられるのは民法125条第1号に掲げられた「全部又は一部の履行」であることから,消費者契約法に基づく取消権との関係では,同号についてのみ,民法の法定追認の規定を適用しないこととするか,あるいは,消費者が取消権を有することを知った後でなければ法定追認の効力が生じないこととするかについて,これらの当否も含め引き続き検討すべきである,と整理しているが,法定追認規定の適用を除外すべき規定を民法125条第1号に限定するのは不適切であり,広く民法125条の法定追認規定の適用を排除することを検討すべきである。

【意見の理由】

中間とりまとめ案が指摘するように,消費者が不当勧誘に基づいて契約を締結した後,事業者から求められて代金を支払ったり,事業者から商品を受領したりした場合に法定追認が認められると,取消権を付与した意味がなくなりかねないことはそのとおりである。
他方で,事業者の取引の安全に配慮すべきである点については,そもそも事業者が不当勧誘を行っているとの前提と消費者契約法が情報量と交渉力に格差があることを踏まえて,不当勧誘に対して消費者に取消権を与えた趣旨を損なうものである。
そもそも,法定追認は本人の意思と無関係に一定の行為を行った場合には,相手方の取引安全に配慮する必要があるから追認の意思を擬制するというものであり,消費者と事業者の情報量と交渉力の格差を踏まえて,事業者に不当勧誘がなされた場合に意思を擬制してまで取引の安全を図る必要はない。
事業者が例えば,商品性能を偽って不実告知勧誘をしておきながら,商品の引渡を業者が行ったことで「全部又は一部の履行」があったとして法定追認規定の適用を認めることが不適当であることは明らかであるが,消費者が契約後に「担保の供与」をしたり,事業者が用意した商品の引渡請求書に署名をしていることが「履行の請求」として法定追認の効力を認めることもやはり,消費者が誤信をしている状況が継続しているが故に生じることは充分考えられるし,消費者契約法の趣旨からは法定追認を認めるべきではない。
このように考えても,事業者は,消費者が取消原因を知っていながら追認したことを主張・立証することで追認自体が成立することを否定するものではないのであるから,不当に取引の安全を侵害しないはずである。

5 「9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果」について

【意見の趣旨】

消費者が消費者契約法に基づく取消権を行使した場合における消費者の返還義務の範囲について,特定商取引法におけるクーリング・オフの場合と同様の,原状回復義務を減免する特別規定を設けるべきである。

【意見の理由】

現代社会において,事業者が,市場価格で商品・役務を販売するために,広告を行う等して競争をしていることは公知の事実である。すなわち,代金が市場価格相当額であっても(市場価格より高い金額でなくとも),商品・役務を販売することには,事業者にとって,多大な利益がある。
そして,事業者の不当勧誘行為により契約が取り消された場合にも消費者が現存利益を返還しなければならない,とする規律は――現存利益は一般に市場価格で評価されることになるであろうから――不当勧誘行為が行われても,事業者が,市場価格で商品・役務を販売したのと同様の利益を保持できる,とすることを意味する。
これは,不当勧誘行為が割に合うこととなる規律に他ならない。そのような規律は,不当勧誘行為の抑止の観点から,受け入れ難いものである。
また,市場においては消費者に適切な情報が提供された上で競争がなされるべきところ,不当勧誘行為が割に合う規律の下においては,市場における競争が歪んでしまう(不当勧誘行為を行う悪質な業者が,不当に有利となる)。そのような規律は,良質な事業者にとっても,不利益をもたらすはずである。
なお,クーリング・オフについては短期の期間制限がなされている一方,不当勧誘行為による取消しは期間の制限が相対的に長いため,この取消しの効果をクーリング・オフと同様とすることは消費者に不当な利益をもたらす,との意見が事業者側から出されている。
しかし,クーリング・オフの場合は,事業者に何らの落ち度がなくとも,事業者は使用利益の返還を求めることができないとされているのである。他方で,不当勧誘行為の場合は,事業者に明確な落ち度がある。そうである以上,相対的に長い期間,不当勧誘行為を行った事業者に不利益を課すことに,衡平に欠けるところはない。
また,詐欺・強迫の場合に民法上特則が設けられていない以上,不当勧誘行為の場合も特則は不要であるとの意見も出されているが,契約一般と消費者契約とを同列に論じることは誤りである。消費者契約について,不当勧誘行為がなされた場合(それは,詐欺・強迫がなされた場合を実質的に包摂する)についての特則を設けることを,民法の一般原則が妨げないことは当然である。
不当勧誘行為は,消費者保護の観点からも,悪質でない事業者の取引機会保護の観点からも,強く抑止すべきものである。不当勧誘行為があった場合に,事業者に不利益を課することが,適切な規律のために必要である。

第3 「第4 契約条項」について

1「1.事業者の損害賠償責任を免除する規定(法第8条第1項)」について

 (1)「(1) 人身損害の軽過失一部免除条項(第2号及び第4号)」について

【意見の趣旨】

人身損害については,保護法益としての重要性と被害者の救済に鑑み,事業者の軽過失によるものであっても,現行法の規定を修正し,事業者の軽過失による人身損害について責任の一部を免除する条項は無効とする。

【意見の理由】

人身損害については,契約締結の時点において,損害の発生,及び内容が未確定であることが多いにもかかわらず,消費者・事業者間の構造的な情報量・交渉力格差のため,一般消費者にとって,事業者の債務不履行,及び不法行為によりいかなる損害が発生するかを予測することは不可能であり,合意による処分には適さない。
当該消費者契約の目的社会に有用な事業活動を阻害しないようにする等の観点から生命に生じた損害以外の一定の免責を認めるべき必要性があるとも考えられるが,過失相殺等で損害の公平な分担を図ることが可能である。

 (2)「(2) 「民法の規定による」要件の在り方(第3号,第4号)」について

【意見の趣旨】

不法行為により生じた損害賠償を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する規定(第3号),故意又は重過失により生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する規定(第4号)により免除の対象となる不法行為責任を,民法以外の規定によるものにも拡張すべきである。

【意見の理由】

かつて民法上に規定があった類型(法人の不法行為で責任等)が,他の特別法等に規定されていることにも鑑み,民法上の損害賠償責任に限定する合理的理由はない。

2「2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)」について

(1)「(1) 「解除に伴う」要件の在り方について

【意見の趣旨】

契約の解除に伴わない損害賠償額の予定条項についても法第9条第1号を改正して適用対象とするほか,消費者が期限前弁済をした場合(諾成的消費者契約における目的物交付前解除権を行使した場合も同様)に,事業者が消費者に対し,期限前の弁済を受けたことによる損害の賠償を請求することはできないという規定を設けるべきである。

【意見の理由】

中間とりまとめでは,契約の解除に伴わない損害賠償額の予定条項についても,法第9条第1号を改正して適用対象とすべきであるとの意見が出されたとしているが,当該意見の理由である実質的に契約を終了させる点では契約の解除の場合と差異がないとの指摘どおり,適用対象を広げるべきであると考える。
一方,期限前弁済について,返済期限までの約定利息の取得が損害賠償の範囲に含まれないとすると,貸金業者のビジネスモデルが成り立ちがたいとの意見が出されている。
確かに,消費者金融業者と一般消費者との間の金銭消費貸借契約において,借主である消費者が期限の利益を放棄し期限前弁済をすることによって,金融業者は,事業の契約の目的である利息の収受ができなくなるという損害は生じ得る。
しかしながら,消費者金融業者は,多数の小口貸付を随時行う業態であり,期限前弁済を受けた金銭は別の顧客への貸付が可能であるし,本来,利息とは元本利用の対価であり,元本利用期間内の利息が損害となるとは考えがたい。
そこで,返済期限までの約定利息が履行利益として損害賠償の範囲には含まれないことを明確化するために,期限前弁済(目的物交付前解除権行使も同様)の場面に限定した規律を定めるべきである。

(2)「(2) 「平均的な損害の額」の立証責任」について

【意見の趣旨】

消費者が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を主張・立証するのは困難であることから,立法による対応が必要であり,事業者へ立証責任を転換する規定を設けるべきである。

【意見の理由】

当該事業者における「平均的損害」は,当該事業者しか知り得ないものであって,これまで裁判所の訴訟指揮,事実上の推定などで対応してきた事案が多いと思われるが,事業者が釈明に応じない事例も報告されている。
文書提出命令に従わないことによる真実擬制を活用することについても,必ずしも文書が明確に特定されるわけではないことから,個別的対応のみでは限界がある。
また立証の対象を,「『当該事業者に生ずべき平均的な損害の額』又は『同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額』のいずれか又は双方を立証すればよく,事業者は,同種事業者の通常損害より当該事業者の通常損害がより高くなることを立証することができる」という案については,結局,立証に協力してくれる同種業者が必要となると思われるが,収支構造,原価率,コスト等,重要な機密事項を含む資料の提出等が必要となるため,競合他社が相手方となる裁判への協力を,同種業者に要請することは非現実的である。

3「3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第10条)」について

(1)「(1) 前段要件」について

【意見の趣旨】

前段要件について,最高裁判例を踏まえ,「消費者契約の条項であって,当該条項がない場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するもので」と修正すべきである。

【意見の理由】

現行の前段要件は,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定(以下「任意規定という。」の適用による場合に比し)と,と規定されている。
最高裁H23.7.15判決は,「明文の規定のみならず,一般的な法理も含まれると解するのが相当である」という明示しており,特に明文の規定に限定する必要はなく,かえって,明文の規定に限定すると,新種の契約類型に対応ができない可能性がある。

(2)「(2) 後段要件」について

【意見の趣旨】

後段要件について,当該条項が平易かつ明確ではないことを,後段要件該当性を判断する上での重要な要素として明記する考え方について,反対である。

【意見の理由】

確かに,当該条項が平易かつ明確でないことは消費者に不利益をもたらすおそれがあることは認められ,現行法3条第1項においても,事業者に対して,条項が明確かつ平易なものになるよう配慮すべき努力義務が定められており,判例においても,消費者契約法10条違反の判断要素として「一義的かつ具体的に明記された」ことを判断要素としている(最高裁平成23年7月15日判決)。
しかしながら,判断要素を明記することで,条項の内容自体は不当条項と判断されうる場合であっても,「条項が,一義的かつ具体的に記載されている」ことが,かえって事業者側に有利な要素として考慮され,後段要件が否定される可能性があるため,当該要素を明記するべきではない。
また,条項の平易明確化の明文上の規制は,第7回会議(法第3条)で検討されているように,「複数の解釈の可能性が残る場合は,条項使用者である事業者にとって不利な解釈を採用することとする」旨の規定が設けられることで可能である。

4「4.不当条項の類型の追加」について

【意見の趣旨】

サルベージ条項を無効とする規定を設けるべきである。

【意見の理由】

サルベージ条項(本来であれば全部無効となるべき条項に,その効力を強行法によって無効とされない範囲に限定する文言を加えたもの)が,仮に有効とされるならば,事業者にとって,契約書面に,実際に妥当する規律の内容を記載するインセンティブは全く無くなってしまう。
また,消費者に強行法の限界についての認識を求めることは,不可能であるし,また,不当でもある(消費者は,そのような法的知識を有しないし,有することを期待することにも無理がある)。法的規律として,強行法の限界についての解釈の負担を,消費者に負わせることは妥当でない。そのような負担は,消費者ではなく,事業者――一般に消費者より法的知識を有しており,かつ,約款を作成する立場にある――において負うべきである。
なお,事業者側から,強行法規を全て把握して契約条項に反映させることはできない旨の意見があるが,契約条項に反映させる事業者のインセンティブをなくしてよいことにはならない。また,強行法規を全て把握する負担を消費者に転嫁することも到底許容されない。
また,事業者側から,サルベージ条項が使用されたことによる被害事案は多くない旨の意見があるが,サルベージ条項に問題があることは明らかなのであるから,被害が多く発生することを待つという態度は失当である。規制のためには,被害の発生が合理的に予測できれば十分である。これまで,サルベージ条項の概念は,必ずしも広く知られていたわけではないが,今回の中間とりまとめによって,広く一般に知られることとなった。そして,悪質な事業者にとって,サルベージ条項を導入しない理由は全くないのである。
かかるサルベージ条項は,速やかに無効とすることが必要である。

以上

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