2015.08.18

「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」における罰則強化等に反対する会長声明

第1 声明の趣旨

当会は,政府が2015年3月6日に提出した出入国管理及び難民認定法(以下,「入管法」という。)の一部を改正する法律案(以下,「本改正案」という。)に対し,反対する。

  1. 罰則強化について
    本改正案は,「偽りその他不正の手段により,上陸等の許可を受けて本邦に上陸し,又は第4章第2節の規定による許可を受けた者」につき,「3年以下の懲役若しくは禁固若しくは300万円以下の罰金に処し,又はその懲役若しくは禁固及び罰金を併科する」罰則規定を,また,上記の行為を営利目的で「実行を容易にした者」につき,「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」罰則規定を新設するものであるが,このような罰則強化に反対する。
  2. 在留資格取消事由の拡大について
    本改正案は,入管法「別表第一」の在留資格を有する外国人が,所定の「活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合も在留資格取消事由とするものであるが,このような在留資格取消事由の拡大に反対する。

第2 声明の理由

  1. 罰則強化について
    1. 立法事実の不存在
      罰則新設の必要性について,政府は,2014年12月10日に閣議決定した「『世界一安全な日本』創造戦略」において,「不法滞在対策,偽装滞在対策等の推進」を掲げ,不法滞在者及び偽装滞在者の積極的な摘発を図り,在留資格を取り消すなど厳格に対応していくとともに,これらを助長する集団密航,旅券等の偽変造,偽装結婚等に係る各種犯罪等について,取締りを強化するとしていることを挙げる。
      しかし,政府統計によると,非正規滞在者(政府のいう不法滞在者)数は,1993年の29万人強から,2015年1月時点では6万人ほどまで大幅に減少している。また,密航に対しては現行入管法,旅券等の偽変造,偽装結婚等に対しては刑法の適用によって対処することが十分に可能である。
      したがって,改めて罰則を強化する必要のある立法事実は存在しないというべきである。
    2. 難民認定申請を萎縮させる危険性
      迫害を逃れて難民として本邦に入国しようとする者は,入国目的として観光や親族訪問などを入国審査官に告げて「短期滞在」等の在留資格で上陸許可を受け,その後に難民認定申請を行う場合が多い。それは,上陸許可がされずに送還されて再び迫害を受ける危険を避けるために,まず安全を確保するためである。
      しかし,本改正案では,このような場合でも「偽りその他不正の手段により」上陸許可を受けたとして,刑罰を科されることになる。
      なお,本改正案は,「難民であること等の証明があったときは,その刑を免除する」としているが,我が国の難民認定数は難民条約締結国の中においても圧倒的に低いのであるから,難民認定申請者が不当に処罰されるおそれがある。
      それゆえ,本改正案は,難民認定申請を萎縮させる危険性がある。
    3. 濫用による弁護士等の職務行為に対する不当な介入の危険性
      「実行を容易にした」という構成要件は極めて曖昧であり,その適用により,入国在留関係手続の申請代理業務を行った弁護士や行政書士に対して,不当な捜査及び訴追が及ぶことになる。
      すなわち,入国在留関係の申請書に記載すべき事項は多岐にわたり,提出する資料等も海外で作成されたものが多く,その全てにつき正確性を調査することは困難であるところ,記載事項に事実と異なる記載があった場合に,「未必の故意」をもって「容易にした」とされて捜査・訴追の対象となるとすれば,弁護士等の職務行為に対する不当な介入を招く危険性がある。
  2. 在留資格取消事由の拡大について
    本改正案は,所定の活動を継続して3か月以上行わないで在留している場合(現行法)に加えて,所定の「活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合も在留資格取消事由とするものである。
    しかし,本改正案では,就労等の在留資格を有する者が解雇等により所定の活動を行えなくなった場合に,在留資格の変更手続を検討するだけで,直ちに在留資格の取消しの対象となるおそれがある。
    また,「行おうとして在留している」と判断されたに過ぎない場合でも在留資格の取消しの対象となるのであり,入管当局の主観的な判断によって安易に在留資格の取消しの対象となるおそれがある。
    なお,本改正案は,「正当な理由がある場合を除く」としているが,在留資格の更新,変更の許可判断自体が入管当局の裁量判断であるから,入管当局の判断によって不当に正当性が否定されるおそれがある。
    在留資格が予定する活動を行わない者に対しては,現行規定の適用によって対処することが十分に可能であり,在留資格取消事由の拡大の必要性はない。

第3 結論

以上の理由により,当会は,本改正案に対して反対する。

以上

2015(平成27)年8月18日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

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