2015.06.16

特定商取引に関する法律の改正に関する意見書2

2015年(平成27年)6月16日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

現在,内閣府消費者委員会に「特定商取引法専門調査会」が設置され,特定商取引に関する法律(以下,「特商法」という。)の見直しに向けた調査・検討が行われているところであるが,特商法の実務上の問題点を踏まえ,特商法の「業務提供誘引販売取引」,「適格消費者団体」及び「法執行」について,以下のとおり,改正するよう求める。

【業務提供誘引販売取引に関して】

第1 業務提供誘引販売取引の対象拡充ついて

  1. 意見の趣旨
    提供される業務において購入物品又は提供役務を利用しない場合であっても,業務提供をするにあたって必要な商品購入・役務提供の契約と説明されていれば,業務提供誘引販売の規制対象とすべきである。
  2. 意見の理由
    1. 法51条1項は,「販売の目的物たる物品又はその提供される役務を利用する業務」としており,文言上,提供される業務を行うにあたって,購入した物品又は役務を利用することが要件となっている。
      業務提供誘引販売取引に対する規制は,もともと内職商法とモニター商法を一括して規制するために,平成12年改正によって設けられた。
      その後インターネットの普及等により,現在では,ドロップ・シッピングやアフィリエイトなど,業務提供誘引販売取引業者が,購入者に対し,ホームページ制作やその運営ノウハウの情報提供,集客のノウハウやそのための各種活動を行うことの対価を支払わせ,購入者にそのホームページの運営を行わせるなど,取引形態が多様化・複雑化し,業務提供誘引販売業者が提供している物品又は役務を「利用」しているといえるかどうか不明確な取引形態のトラブルが起きている。
    2. しかし,このような取引形態は,購入者が業務を行うにあたって必要な商品・役務提供であるとして販売を行っている点,購入者は,その商品・役務の便益を受けながら業務を行う点で,典型的な業務提供誘引販売取引と同じである。
      そうすると,業務提供誘引販売取引の規制対象とするために,厳密な意味での利用関係まで求めると,業務提供誘引販売取引と同様の取引形態を規制できないことにもなり,被害の拡大につながる。
      また,特定継続的役務提供取引においては,「役務の提供に際し役務提供受領者が購入する必要のある商品として政令で定める商品(関連商品)」の売買契約についてもクーリング・オフや中途解約権等を認めており(法48条2項,49条5項,6項),特定継続的役務提供取引と関連商品との間には「必要」関係さえあれば足り,「利用」関係まで求めていない。
      そもそも,業務提供誘引販売取引が規制されるようになった趣旨が,業務提供誘引販売取引業者が,業務提供の約束をして,商品等を購入させながら,業務の不提供等によって,商品購入者が被害を受けることを防止する点にあるという,上記特定継続的役務提供取引と同様の趣旨にあることからすれば,業務提供誘引販売取引においても,厳密な利用関係まで要求する必要はない。
    3. したがって,提供される業務において購入物品又は提供役務を利用しない場合であっても,業務提供をするにあたって必要な商品購入・役務提供の契約と説明されていれば,業務提供誘引販売の規制対象とすべきである。

【適格消費者団体に関して】

第2 適格消費者団体による特商法の活用状況及び課題

  1. 意見の趣旨
    特商法における差止請求訴訟,差止請求の実効性を担保するために,特商法を以下の通り改正すべきである。
    1. 訪問販売,電話勧誘販売,連鎖取引販売,特定継続的役務提供,業務提供誘引販売取引についての差止請求訴訟において,適格消費者団体は,事業者に対し,一定の不実の告知の対象事項(同対象事項とは,それぞれ,訪問販売について法58条の18第1項1号,電話勧誘販売において法58条の20第1項1号イ,連鎖取引販売について法58条の21第1項1号イ及び法24条第1項4号,特定継続的役務提供について法58条の22第1項2号イ及び同号ロ,業務提供誘引販売取引について法58条の23第1項1号イ及び法52条1項4号に掲げる事項をいう。)につき,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出するよう申し立てることができることを法律上規定すべきである。
    2. 前項の申立にも拘わらず,事業者が,前項の不実の告知の対象事項につき,当該告げた事項の裏付けとなる合理的根拠を示す資料を提出しないときは,差止訴訟において,事業者は当該対象事項について不実の告知をしたものとみなすことを法律上規定すべきである。
  2. 意見の理由
    1. 事業者に対して一定の不実の告知の対象事項につき,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出するよう申し立てることができること
      適格消費者団体による差し止め請求が特商法に導入されたのは平成20年の特商法の改正時であるが,平成26年3月31日時点において,適格消費者団体による特商法に基づく差止請求訴訟は1件,平成26年7月5日時点において差止請求は13件にとどまっている。
      他方,消費者契約法による差止請求訴訟は33件,差止請求は264件行われている。
      このように特商法に基づく差止請求,差止請求訴訟が行われていない要因としては,以下のように考えられる。すなわち,特商法の差止請求の対象としては,消費者への勧誘行為において不実の告知等の行為が多いと思われるが,不当契約条項のような明確な書証が観念できる場合に比べ,不実の告知等の不当な勧誘行為については言った言わないの水掛け論になってしまい立証困難のため,差止請求及び差止請求訴訟の行使が容易でないためである。
      そもそも,特商法の差止請求の対象となる不実の告知等が行われる事案は,通常,偶然発生するものではなく,事業者の営業方針の下で行われる事案と思われであるから,同種被害の将来の発生防止のため,特商法に基づく差止請求および差止請求訴訟の活用が必要である。
      そして,不実の告知等の対象事実について,立証困難性を救済するためには,事業者に対して不実の告知等の対象事項,例えば商品の性能,効能,品質,効果等の対象事項について,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求め,事業者において対象事項について不実の告知に該当しないことの資料提出を促すのが有用である。
      また,上記のとおり,通常,不実の告知等は事業者の営業方針の下で行われているのであるから,事業者において不実の告知等の裏付けとなる資料提出をすることは容易かつ合理的であるといえる。
      そこで,差止請求訴訟において,事業者に対して,不実の事項の対象事項について,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す旨の資料の提出をするよう求めることができるように規定すべきである。
      そして,意見の趣旨(2)で述べた不実の告知をしたものとみなす旨の規定との均衡から,事業者が資料を提出しない場合に不実の告知をしたものとみなされる範囲の事項について,資料の提出を求める旨の申し立てができると規定するのが相当である。
      なお,意見の趣旨(2)で述べた不実の告知をしたものとみなす法律上の規定の存在により,差止請求訴訟上,事業者に対する資料提出を促すことができるのは勿論,提訴前の差止請求においても事業者に対する資料提出を促すことが期待でき,差止請求請求の実効性も確保される。
    2. 一定の不実の告知の対象事項について,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出しないときに,不実の告知をしたものとみなすこと
      意見の趣旨(1)で述べたように,単に事業者に対して不実の告知の対象事項について,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるだけで,事業者が合理的な根拠を示す資料を提出しない場合に何らの効果を伴わないのでは,差止請求及び差止請求訴訟における立証の困難性が救済されることにはならない。
      そもそも,不実の告知の対象事項のうち,特商法において,主務大臣から,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求められた場合に,事業者が当該資料を提出しなければ,事業者において不実の告知をしたとみなされ,ひいては主務大臣が事業者に対して必要な措置をとるよう指示し,又は業務の停止等を命じることができるとされている。(特商法6条の2,7条,8条等参照)。
      そうすると,このような事項については,事業者において当然,当該資料を保管しているはずであり,適格消費者団体による差止請求訴訟において,事業者に対して当該資料の提出を求めても過度の負担にはならないのであるし,当然に提出を期待できるのである。それにもかかわらず,事業者において当該資料を提出すらしない場合に,不実の告知が立証できない結論になるのは相当ではない。事業者において,当該資料の提出をしない場合には,対象事項について不実の告知があったものとみなす旨を法に規定するのが相当である。
      なお,このような不実の告知の対象事項のうち,事業者が合理的な根拠を示す資料の提出をしなければ,不実の告知をしたとみなされ,主務大臣が業務の停止等を命じることができる事項とは,それぞれ,訪問販売についての法6条1項1号,電話勧誘販売についての21条1項1号,連鎖取引販売についての31条1項1号及び同項4号,特定継続的役務提供についての44条1項1号及び同項2号,業務提供誘引販売取引についての52条1項1号及び同項4号の事項である(なお,これらの各特商法において事業者が不実の告知をしたとみなされる規定の対象事項は,差止請求訴訟の要件においては,それぞれ訪問販売について法58条の18第1項1号,電話勧誘販売において法58条の20第1項1号イ,連鎖取引販売について法58条の21第1項1号イ及び法24条第1項4号,特定継続的役務提供について法58条の22第1項2号イ及び同号ロ,業務提供誘引販売取引について法58条の23第1項1号イ及び法52条1項4号に掲げる事項に該当する。)。
      差止請求訴訟において,事業者が当該資料を提出しない場合に不実の告知をしたとみなされる対象事項も,これらの主務大臣が業務の停止等を命じるに際して事業者が不実の告知をしたものとみなされる事項に限定すれば,あくまで事業者において当然合理的資料を保管している範囲内に限り資料提出を促すのであるから,事業者に対する過度の負担ではない。
      したがって,訪問販売,電話勧誘販売,連鎖取引販売,特定継続的役務提供,業務提供誘引販売取引の差止請求訴訟において,事業者が,それぞれ訪問販売について法58条の18第1項1号,電話勧誘販売において法58条の20第1項1号イ,連鎖取引販売について法58条の21第1項1号イ及び法24条第1項4号,特定継続的役務提供について法58条の22第1項2号イ及び同号ロ,業務提供誘引販売取引について法58条の23第1項1号イ及び法52条1項4号に掲げる事項について,当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出しないときは,当該対象事項について不実の告知をしたものとみなすことを法律上規定すべきである。

【法執行に関して】

第3 執行対象者の拡充及び立ち入り検査の実効性確保について

  1. 意見の趣旨
    特商法における行政処分の実効性を担保するために,特商法を以下の通り改正すべきである。
    1. 法人が違反行為を行った場合,当該法人のみならず,当該法人の業務を執行する社員,取締役,執行役若しくはこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有すると認められる者(以下「役員等」という。)についても,行政処分の対象とすることができるように法律上規定すべきである。
    2. 立入検査を拒否,妨害した場合には,違法行為をしていないことにつき合理的根拠を示さなければ,立入検査を拒否,妨害したことについて,公表することができるように法律上規定すべきである。
    3. 複数の都道府県にまたがる被害事案に対する法執行について,国と都道府県の役割分担を定めた政令を改正し,広域的に被害が及ぶ事案については国が積極的に行政処分を行うものとするとともに,都道府県による行政処分についても広域的に被害が及ぶ事案についてはその効果が全国に及ぶことができるよう規定すべきである。
  2. 意見の理由
    1. 法人の「役員等」を行政処分の対象とすること
      現行法上では,事業者が法人の場合には,処分の効力が事業者にしか及ばない。そのため,法人に対して行政処分を行っても,当該事業者の「役員等」が,別の法人を立ち上げることで業務を行うことが可能となり,会社法の改正(平成18年)等により起業が簡便になったこともあって,同一のメンバーが次々と別の法人を設立し,違法行為を繰り返しているという事態が生じている。
      このような被害実態を踏まえ,行政処分の潜脱を図るような事案に対処するため,事業者である法人が違反行為を行った場合には,当該法人のみならず,当該法人の「役員等」の個人についても,行政処分の対象とできるようにする必要がある。
      そして,「役員等」の個人を処分の対象としたとしても,法人を処分する場合に「役員等」への処分が義務づけられるわけではなく,法人の役員等に行政処分の効力を及ぼしている建設業法第29条の4第1項も,その対象である「役員等」を,「業務を執行する社員,取締役,執行役若しくはこれらに準ずる者又は相談役,顧問その他いかなる名称を有するものであるかを問わず,法人に対し業務を執行する社員,取締役,執行役若しくはこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有する者と認められる者」と規定していることから,「役員等」を行政処分の対象とすることに不都合はない。
      よって,法人が違反行為を行った場合,当該法人のみならず,「役員等」についても,行政処分の対象とすることを法律上規定すべきである。
    2. 立入検査を拒否,妨害したことについて公表できるようにすること
      レンタルオフィスやヴァーチャルオフィス,転送電話,私設私書箱等の各種サービスの発達,普及により,事業者の実態の把握や処分が困難な事例が急増している。そして,立入検査については,特商法上の担保手段が間接強制にとどまるため,なかなか実行できないことが多く,事業者が立入りを故意に遅延させてその間に書類等の処分を行うなど,有効な物証の確保が妨げられ,処分に支障を来す事態が生じている。
      立入検査に協力する事業者でないと十分な違反認定の証拠がないということで行政処分ができないことは,立入検査に協力しない,悪質性が高い事業者であれば不利益処分を受けないですむという矛盾が生じてしまうことから,立入検査を拒否,妨害した場合の,不利益処分の導入は必須である。
      もっとも,裁判官が発する許可状を得て強制的に立入検査を行うことは現実的ではなく,どのような証拠が存在するのか不明な状況で,当該法人に疑われる違反事実を,立入検査の拒否,妨害の事実により擬制することもまた,現実的ではない。
      この点,立入検査自体を拒否,妨害したことは,当該事業者が不誠実な業者であり,違反行為を行ったことを事実上推認させる事情といえ,立入検査を拒否,妨害したことを公表することは,立入検査の実効性を強化するといえる。
      他方,違反行為をしていないことにつき合理的根拠を示せば公表はされず,また仮に公表されたとしても,当該事業者が立入調査を拒否,妨害したこと自体は事実である以上,立入検査の拒否,妨害を公表することに不都合はない。
      よって,調査を拒否,妨害した場合には,違法行為等をしていないことにつき合理的根拠を示さなければ,立入調査自体を拒否,妨害したことについて,公表することができるように法律上規定すべきである。
    3. 都道府県による行政処分は,自治事務という性質から他の都道府県には効果が及ばないものとされているため,複数都道府県にまたがる広域に及ぶ消費者被害においては,処分を実施した都道府県以外の地域において被害が引き続き発生・拡大することを防止することができない。また,悪質業者は,ある都道府県で行政処分を受けると,他の都道府県に移動して営業活動を展開するケースも少なくない。
      消費者庁は,広域的被害事案における国と都道府県の行政処分における役割分担について,県域レベルの被害は都道府県,全国的に被害が及んでいるケースは国を基本とし,複数県にまたがるケースに対しては複数県による共同処分や国と都道府県が連携処分するパターンを活用することが考えられると,整理している。しかし,被害が発生している都道府県全部が行政処分を共同で実施できていないケースや実施が見込めないケースも多く予想されるところ,そのようなケースについては,まずは運用上の取組として国による情報集約と行政処分が積極的に行われるべきである。
      この点につき,現行政令は,当該都道府県の区域内における事業者の販売活動等に対する行政処分を「都道府県知事が行う」こととし,二つ以上の都道府県の区域における事業者の販売活動等について「適正かつ効率的に対処するため特に必要があると認めるとき」「都道府県知事から要請があったとき」に限って国が行うことを「妨げない」としており(政令第9条),あたかも,原則は都道府県,国が処分を行うことは例外とするかのような表現になっている。これは,上記の国と都道府県の役割分担の考え方とも異なり,国の積極的な法執行の妨げとなりかねない規定といえる。
      したがって,全国的な被害及び複数都道府県にまたがる被害に対する国の法執行が適切に行われるよう現行政令を改正するべきである。
      さらに,現在の国(消費者庁及び経済産業局)の法執行体制に照らせば,広域的な事案を国だけで対応することは現実的でない。他方で,都道府県が行う行政処分を一律に法定受託事務と規定してその効力を常に全国に及ぼすこととすると,地域で発生する事案について都道府県の対応が慎重になり過ぎる懸念や,他の都道府県任せで執行をしない自治体が生じる懸念が指摘されている。
      そこで,都道府県が行政処分を行うに当たり,広域的に被害が発生している事案であると認められる場合は,当該都道府県と消費者庁との協議または消費者庁の認定により,行政処分の効果を全国に及ぼすことができるよう決定できる措置を講ずる政令改正を行うべきである。

以上

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