2015.05.14

預貯金口座を個人番号(「マイナンバー」)で管理する法改正に反対する会長声明

政府は,2015(平成27)年3月10日,個人番号(いわゆる「マイナンバー」)の利用範囲を拡大し,金融機関に対して個人番号による預貯金口座の管理を義務づけ,金融機関が個人番号の告知を求めることができるものとする,「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「個人番号法」という。)の改正案を提出した。
税・社会保障番号制度(いわゆるマイナンバー制度,以下「個人番号制度」という。)は,官民において,個人の様々な情報を生涯不変の番号によって管理し,各分野における情報を,情報提供ネットワークというシステムを通じて確実に名寄せ,統合して利用することを可能とする制度である。政府は,公正な税負担,行政の効率化などを理由として個人番号制度を実施しようとしているが,同制度によって個人番号を利用できる利用事務の範囲はもとより広大であり,また,情報提供ネットワークを介さずに国家が個人番号を含めた個人情報を収集できる例外が広く規定されているなど,国家による市民の監視に利用されかねないものであって,憲法13条より認められる市民の自己情報コントロール権を著しく形骸化させるものである。さらに,個人番号制度によって,大量の情報漏洩や,なりすましによるプライバシー権侵害の深刻な被害の危険を高めるものである。当会は,これらのことから,個人番号制度の検討過程からその成立に反対を表明してきた。
今回の法改正は,こうした問題のある個人番号制度の利用範囲を,未だ制度の実施に至る以前に拡大しようとするものである。そもそも,政府は,前記のような個人番号制度への懸念に対して,個人番号法による利用事務以外に個人番号の利用を認めないことを保護施策のひとつとして掲げてきたが,制度実施前にその根本である個人番号法自体を改正して利用範囲を拡大することは,同制度を導入する前提として市民に対して行った説明を自ら覆すものであると言わざるを得ない。しかも,その改正の内容は,預貯金という個人の私生活全般に関わる重大な情報を,民間の金融機関において個人番号を利用して管理させるものであるから,個人番号の利用範囲,管理される個人情報の範囲の両者を大幅に拡大するものであり,プライバシー権侵害の懸念を著しく増大させるものである。
当会は,市民のプライバシー権を著しく損なう個人番号制度そのものについて,制度の開始を延期した上で,改めて廃止を含めた見直しの検討を求めると共に,制度開始に先だってその利用範囲を拡大する法改正に対して強く反対するものである。

以上

2015(平成27)年5月14日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

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