2015.05.03

憲法記念日にあたっての会長談話

本日,日本国憲法が施行されてから69年目の憲法記念日を迎えました。

日本国憲法は,個人の尊厳を核心的原理とし(13条前段),そのために基本的人権を侵すことのできない永久の権利と定めました(11条,97条)。また,この基本的人権の保障を図るために,国家権力を分立させ(41条,65条,76条),憲法に反する一切の法律や行政行為等を無効とし(81条,98条),内閣総理大臣その他の国務大臣をはじめとする公務員に憲法尊重擁護義務を課しています(99条)。さらに,大日本帝国がアジア・太平洋戦争においてアジア諸国民等2000万人以上,日本国民310万人以上を死に追いやった惨劇を繰り返さないという痛切な反省のもと,日本国憲法では,戦争の放棄,戦力の不保持,交戦権の否認という徹底した平和主義を基本原理として定めています(9条)。
そして,歴代の政府は,このような日本国憲法9条のもとで,自衛のための実力の行使は認められるとしつつも,集団的自衛権は行使できないとしてきました。これまでの政府は,上のような見解を採ることにより,従前の安全保障に関する諸法制が日本国憲法に適合しているとの解釈を続けてきたのです。

ところが,現政府は,昨年7月1日の閣議決定によって,憲法9条に関する従来の政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し,さらには,自衛隊の海外派遣や武器使用権限を拡大する方針を打ち出しました(昨年4月に武器輸出可能との閣議決定もなされています)。しかし,長年維持されてきた集団的自衛権に関する従前の政府見解を変更するということは,実質的には解釈による改憲に等しいものであって憲法96条の趣旨に反します。そして,集団的自衛権が行使できるとなれば必然的に自衛隊が外国の戦争に巻き込まれ,自衛隊員が外国で人を殺す危険性も高まります。このような状況は,日本国憲法9条に明確かつ直接に抵触すると言わざるを得ません。
さらに,この閣議決定を受けて,現在,安全保障法制に関する諸法案の改正や策定が検討され,また,自衛隊による米軍支援を拡大する方向で「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)の改定作業が進められています。しかし,現政府は,国政のあり方を最終的に決定する私たち国民に対して,安保法制の諸法案や新ガイドライン等に関する情報を殆ど開示してきませんでした。近時,国民は,初めてその具体的内容を知るという由々しき事態におかれましたが,このような政府の行為は,国民主権原理に全く適合しないものであり,それは憲法の基本原理に基づく国政運営を求める立憲主義に違背するものです。

当会では,2014年5月22日に「解釈改憲による集団的自衛権行使認容に反対し,非軍事恒久平和主義,立憲主義の堅持に向けた諸活動に取り組む決意を表明らする総会決議」を採択し,2015年3月24日には「安保法制関連法案の改定に断固反対する会長声明」を発出するなど,日本国憲法の平和主義や立憲主義を堅持するための諸活動に取り組んできました。

そして,当会は,本日の憲法記念日に際し,現政府の閣議決定の撤回を求めるとともに,現在進められようとしている安全保障に関する諸法制の策定に断固反対し,併せて,日本国憲法の平和主義や立憲主義,基本的人権を守る活動に全力を挙げて取り組むことを誓うものであります。

以上

2015(平成27)年5月3日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

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