2021.01.15

特定商取引法に基づくガイドラインである「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」の見直しについての提言

第1 提言の趣旨

「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」(以下、「本ガイドライン」という。)について、本ガイドラインの趣旨として、1項の内容を明記し、そのうえで、2項の部分を削除し、3項のように追加・修正すべきである。

  1. 申込み最終確認画面に至るまでの広告画面において、消費者が誤認するおそれがある表示が存在する場合には、申込み最終確認画面上において、そのような誤認を生じさせない、あるいは解消させるよう、これに関する契約条件を表示すべきであるという趣旨を明記すべきである。
    1. 本ガイドラインⅡ(いわゆる定期購入契約の場合)第1項(1)B「『注文内容を確認する』といったボタンをクリックすることにより定期購入契約の主な内容が全て表示され、当該操作を行ってはじめて申込みが可能となっている場合。(参考:【画面例8】)」との記載
    2. 本ガイドラインⅡ第2項(1)①B「申込みの最終段階の画面上において、『注文内容を確認する』といったボタンをクリックすることにより定期購入契約の主な内容の全てが確認できる場合」との記載
    1. 本ガイドラインⅡ第1項(2)に「申し込みの最終確認の画面上において、定期購入契約の主な内容の表示として、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とが一体として表示されていない場合(2回目以降の契約条件が注意書きのように表示されている場合や初回分の契約条件の表示と比較して文字サイズが小さい場合を含む)。」を追加すべきである。
    2. 本ガイドラインⅡ第2項(2)を「申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容が全て表示されず、又は初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とが一体として表示されておらず(2回目以降の契約条件が、注意書きのように表示されていたり、初回分の契約条件の表示と比較して文字サイズが小さい場合を含む)、これを確認及び訂正するための手段(『注文内容を確認する』などのボタンの設定や、『ブラウザの戻るボタンで前に戻ることができる』旨の説明)も提供されていない場合。」とし、下線部を加筆し修正すべきである。
    3. 定期購入契約の主な内容(本ガイドラインⅡ、注2の部分)に、以下の点を追加すべきである。
      • 顧客からの解約申出がない限り、自動継続契約となる場合に は、その旨並びにその1回あたりの商品代金及び送料。
      • 中途解約を認める場合に、解約条件が存在するときはその旨及 び条件の内容。
      • 中途解約した場合に、商品代金の割引適用が遡及的に消滅する ときは、その旨及び購入者が負担することとなる金額。

第2 提言の理由

1 はじめに

当会は、令和2年6月11日、いわゆる定期購入契約に関する被害を防止するため、特定商取引法及びその政省令等において、諸規制を導入すべき旨の意見を出した(定期購入契約を中心とするインターネット通信販売におけるさらなる規制を求める意見書。)。
その後、特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会より、「詐欺的な定期購入商法」に該当する定期購入契約を念頭に、特定商取引法における顧客の意に反して通信販売に係る契約の申込みをさせようとする行為等に関する規制を強化すべきとの報告がなされ、その具体的な内容として、本ガイドラインの早期見直しの実施が提言されている。
当会も、本ガイドラインの早期見直しを求めるべく、本提言をするものである。

2 本ガイドラインの定め

  1. 特定商取引法は、通信販売において、顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為を指示対象行為として定めている。これを受け、特定商取引法施行規則(以下、単に「施行規則」という。)16条1項1号では、いわゆるインターネット上の通信販売取引において、電子契約の申込みとなることを顧客が容易に認識できるように表示していないことを禁止し、同項2号では、申込みの内容を顧客が容易に確認し、訂正できるようにしていないことを禁止している。
    そして、消費者庁及び経済産業省は、本ガイドラインにて、いわゆる定期購入契約の場合について、施行規則16条1項1号及び同2号に該当する例及び該当しない例を示している。
  2. 本ガイドラインⅡ第1項(1)Bでは、施行規則16条1項1号に該当しない例として、「注文内容を確認する」といったボタンをクリックすることにより定期購入契約の主な内容が全て表示され、当該操作を行ってはじめて申込みが可能となっている場合を挙げ、その画面表示の例として【画面例8】を掲げている。
    また、本ガイドラインⅡ第2項(1)①Bでも、施行規則第16条1項2号に該当しない例として、「注文内容を確認する」といったボタンをクリックすることにより定期購入契約の主な内容が全て表示され、確認できる場合を挙げ、参考画面例として【画面例8】を掲げている。
    さらに、本ガイドラインⅡ第1項(2)B、同第2項(2)では、特定商取引法施行規則第16条1項1号ないし2号に該当するおそれがある例として、申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容の全てが容易に認識できないほどその一部が離れた場所に表示されている場合を挙げ、その画面表示例として【画面例9、10】を掲げている。

3 本ガイドラインの問題点

  1. まず、本ガイドラインは、申込み最終確認画面の表示に関するものであるところ、定期購入契約に関する相談事例をみると、申込み最終確認画面に至る広告画面において、「初回●●●円」、「解約保証」などといった強調表示が存在するため、消費者が、初回分のみの契約であると誤認したり、いつでも無条件で解約ができると誤認してしまうものが多く存在する。
    定期購入契約に関する被害を生み出すきっかけは、申込み最終確認画面の表示だけでなく、そこに至るまでの広告画面上に、初回分の契約であるかのような表示やいつでも無条件で解約できるかのような表示が存在することにもある。
    しかしながら、本ガイドラインでは、こうした広告画面上の表示によって誤認した消費者が、申込みを最終確認画面に至ってもその誤認が解消されず、定期購入契約の申込みをしてしまっている問題点について何ら触れていない。
  2. ところで、前記2(2)で指摘した部分は、申込みの最終確認画面上において、定期購入契約の主な内容がすべて表示することを求めてはいるものの、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件の表示の仕方として、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とを一体として表示することまでを求めておらず、分離した表示とすることや2回目の契約条件の文字サイズを初回分の契約条件の文字サイズよりも小さい文字で表示することも許容する内容となっている。
    このことは、【画面例8】をみてもわかるとおり、【画面例8】では、注文内容の表示として、初回分の金額・数量・総額のみしか記載されておらず、2回目以降の契約条件については、「注文内容を確認する」といったボタンをクリックすることにより2回目以降の契約条件が表示されるようになっており、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とが一体として表示されておらず、分離した表示となっている。
    また、2回目以降の契約条件部分の文字サイズも初回分の注文内容の文字サイズと比較して小さい(別添資料1)。
  3. さらに、本ガイドラインⅡ第1項(2)B、同第2項(2)では、申込みの最終確認画面上において、定期購入契約の主な内容の全てが容易に認識できないほどその一部が離れた場所に表示されている場合には、特定商取引法施行規則第16条1項1号ないし2号に該当するおそれがあることを指摘している。
    しかしながら、この指摘は、【画面例8】の表示と相まって、初回分の注文内容表示からよほど離れた場所に表示されていなければ、2回目以降の契約条件を注意書きのような形式で表示することを容認する趣旨と捉えられる内容となっている(別添資料2
  4. そのため、定期購入契約に関するインターネット通販業者のホームページには、2回目以降の契約条件について、初回分の注文内容表示とは分離して注意書きとして表示する申込み最終確認画面が多く存在する(例として、消費者庁公表の令和元年12月25日付け株式会社アクアに対する指示処分の別添資料、同日付け株式会社TORUTOに対する業務停止命令の別添資料、令和2年1月21日付け株式会社GRACEに対する指示処分の別添資料、同年8月6日付け株式会社wonderに対する業務停止命令の別添資料、埼玉県公表の令和2年4月1日付け株式会社ニコリオに対する業務停止命令の別添資料2参照。)
    特に、消費者が、定期購入契約であるにもかかわらず、初回分の契約のみであると誤認して申し込みをしてしまうホームページをみると、申込み画面に至るまでの広告画面において、初回分の価格が通常価格よりも大きく割引された価格であることを表示する強調表示が多く存在する。
    その影響を受けた消費者が、2回目以降の契約条件が初回分の契約条件と分離され、かつ、注意書きのような形式で記載されている表示を、重要な契約条件の表示であることを認識しないまま、重要でない注意書きと認識してこれをよく確認せず、あるいは、確認が不十分のまま、初回分の購入のみであると誤認して申し込みをしてしまうケースが多く存在する。
    現に、本ガイドラインは、平成29年11月に公表されたものの、定期購入に関する平成30年度の相談件数は23,002件、令和元年度の4月から11月の相談件数は29,177件と増えており(令和元年12月19日付け国民生活センター公表)、令和2年度も同水準の相談件数となっている。
    これは、初回分の契約条件が主たる注文内容として表示され、2回目以降の契約条件がこれと一体として表示されず、文字サイズが小さく、かつ、分離した表示あるいは注意書き表示になっているからである。
    このような表示方法は、消費者にとって定期購入契約全体の契約条件を容易に認識・確認しえない表示方法というほかない。

4 本ガイドラインを見直すべきであること

  1. そもそも定期購入契約は、複数回の商品購入が前提となっているのであるから、客観的にみれば、消費者が申込む注文内容は、初回分の商品購入のみではなく、事業者が定める複数回の商品購入である。そして、このことは、消費者が定期購入契約を申し込むかどうかにあたって重要な取引条件といえる。
    そうすると、注文内容の主たる表示として、初回分の契約条件のみを表示し、2回目以降の契約条件をこれと一体表示せずに、文字サイズを小さくし、注意書きのような形式で分離して表示することは、消費者にとって誤認を生じさせる表示である。
    したがって、初回分及び2回目以降の契約条件を一体として表示すべきであり、このような観点からガイドラインを見直すべきである。
  2. まず、本ガイドラインの趣旨として、申込み最終確認画面に至るまでの広告画面において、消費者が誤認するおそれがある表示が存在する場合には、申込み最終確認画面上において、そのような誤認を生じさせない、あるいは解消させるよう、これに関する契約条件をきちんと表示すべきであることを明記すべきである。
  3. そして、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とを分離して表示することを許容するかのような内容となっている本ガイドラインⅡ第1項(1)B及び同第2項(1)①Bの記載を削除すべきである。
  4. さらに、本ガイドラインⅡ第1項(2)に、「申し込みの最終確認の画面上において、定期購入契約の主な内容の表示として、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とが一体として表示されていない場合(2回目以降の契約条件が注意書きのように表示されている場合や初回分の契約条件の表示と比較して文字サイズが小さい場合を含む)。」を追加し、初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とを一体として、かつ、同程度に表示することを求めるべきである。
    また、ガイドラインⅡ第2項(2)を、「申込みの最終段階の画面上に おいて、定期購入契約の主な内容が全て表示されず、又は初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とが一体として表示されておらず(2回目以降の契約条件が、注意書きのように表示されていたり、初回分の契約条件の表示と比較して文字サイズが小さい場合を含む)、これを確認及び訂正するための手段(『注文内容を確認する』などのボタンの設定や、『ブラウザの戻るボタンで前に戻ることができる』旨の説明)も提供されていない場合。」とし、下線部分を加筆修正し、本ガイドラインⅡ第1項(2)と同様に初回分の契約条件と2回目以降の契約条件とを一体として、かつ、同程度に表示することを求めるべきである。
  5. また、定期購入契約においては、上記の点のほか、顧客からの解約申出がない限り、自動継続購入となる場合に、消費者がその旨及び自動継続後の1回あたりの商品代金や送料を認識しないまま契約をしてしまうケース、中途解約できる場合に、解約条件が存在するにもかかわらず、消費者がこれを認識しないまま、無条件で中途解約できると誤認して契約をしてしまうケース、中途解約した場合に、初回分価格の割引が遡及的に消滅することを認識しないまま契約してしまうケースなども多く存在する。
    この点、本ガイドラインでは、定期購入契約の主な内容として、「契約期間(商品の引渡しの回数)、消費者が支払うこととなる金額(各回の商品の代金、送料及び支払総額等)及びその他の特別の販売条件がある場合にはその内容」と挙げているが(本ガイドラインの注2の部分)、上記の点に関する記載はない。
    しかし、顧客からの解約申出がない限り、自動継続購入となり、自動継続となる場合の1回あたりの商品代金や送料、中途解約の条件及びその内容、中途解約をした場合に商品代金の割引適用が遡及的に消滅し、割引価格分を消費者が負担することは、契約内容そのものないし消費者が定期購入契約を申し込むにあたって重要な取引条件であることから、これらも定期購入契約の主な内容として加えるべきである。 具体的な記載例として、別添資料3ないし5のような記載方法が考えられる。

以上

2021(令和3)年1月15日
埼玉弁護士会会長  野崎 正

本提言書は、令和2年3月31日改正前のガイドラインを対象としたものです。本提言の趣旨3項③ア、イについては、すでに上記改正において、ガイドラインに明記されています。

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