2021.06.10

重要土地等調査規制法案の廃案を求める緊急会長声明

  1.  政府は、今国会に「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(本法案)を提出し、既に2021年6月1日に衆議院本会議で採決され、現在、参議院で審議されている。

  2.  本法案は、内閣総理大臣が、自衛隊や米軍の基地等の「重要施設」の敷地周囲おおむね1㎞内や国境離島等の区域内にある区域を「注視区域」に指定し、 ①区域内にある土地及び建物(以下「土地等」)の利用状況を調査すること、 ②「施設機能」や「離島機能」を阻害する行為の用に供したり、供する明らかなおそれがあると認められるときは、利用中止等の勧告を行ったり、罰則付きの命令(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金)を発することができること、 ③「注視区域」のうち「特別注視区域」とされた区域においては、土地等の売買等について、当事者に事前の届け出を罰則付き(6か月以下の懲役又は100万円以下の罰金)で義務付けること等を定めようとするものである。

  3.  しかし、本法案は、軍事的安全保障の観点から、後述のような国民の各種人権を、政令によって広範に制限しようとするものであり、プライバシー権や思想良心の自由、表現の自由に関しても重大な権利侵害が懸念されること、また、処罰の対象となる行為が極めて曖昧であり罪刑法定主義(31条)に反するものであること、日本国憲法に定める平和主義(9条)の理念に悖るものであることから、参議院での強行採決は断じて許されるべきものではない。

    1.  本法案は、対象となる「重要施設」を自衛隊や米軍、海上保安庁のすべての施設のほか、政令で定める生活関連施設としていること、国境離島等も島そのものを対象としていることから、調査規制の対象となる「注視区域」を無限定に拡大しうる内容となっている。
       そして、内閣総理大臣は、調査のために必要がある場合、関係行政機関の長等に対し、「注視区域」とされた区域の土地等の利用者等の氏名や住所等の情報提供を求めることができるとされているが、提供の対象となる「情報」は政令で追加できるものとされ、何の制限もないことから、土地等の利用者や関係者の行動や交際範囲、思想信条等にまで調査対象が拡大されるおそれがある。
       また、これらの調査は、「土地等の利用者その他の関係者」にも情報提供義務が課され、たとえ自身への調査であっても報告や資料提供に応じなければ処罰されるおそれがあり、調査対象となった土地等の利用者や関係者のプライバシー権や思想・良心の自由が侵害されるおそれがきわめて大きい。
    2.  また、本法案は、内閣総理大臣が、重要施設の「施設機能」や国境離島等の「離島機能」を「阻害する」おそれがあると認められれば、利用者に対して利用中止等の勧告や命令を発しうるとされており、この命令にも罰則が用意されている。
       しかし、「機能」の内容は曖昧であり、「機能を阻害する」行為や「供する明らかなおそれ」という、あまりにも広範かつ曖昧な要件であるため、内閣総理大臣が曖昧な要件の下で罰則付き命令を広く行うことが可能となり、プライバシー権、思想・良心の自由、財産権等のほか、居住移転の自由、市民運動や基地監視活動などを通じた表現の自由、取材の自由等、多くの基本的人権が侵害されるおそれが大きく、また、罪刑法定主義に反するものといえる。実際に、与党議員からは、沖縄辺野古基地周辺での市民による抗議活動も同法案の規制対象となる可能性が示唆されているところである。
    3.  そもそも本法案は、政府が自衛隊基地周辺の外国資本による土地取得を問題視し、その規制を求める声があるとして立案されたものではあるが、全国約1800の自治体のうちそのような意見書が出された自治体は16件にとどまっており、衆院本会議で「地域住民の不安が広がっている」と名指しされた千歳市や対馬市からは意見書が提出されていないことが判明している。
       また、防衛省の調査の結果、これまでかかる土地取得などで自衛隊の運用等が阻害された事実がないことは政府も認めているところであり、立法事実が存在しないことが明らかとなっている。
       埼玉県は、陸上自衛隊朝霞駐屯地、航空自衛隊入間基地、航空自衛隊熊谷基地等だけでなく、米軍施設の所沢通信施設も抱えており、その周囲に居住し、又は、利用する埼玉県民が本法案による調査規制対象となり、広範かつ曖昧な目的により埼玉県民が知らないうちに思想・良心や表現行為に関わる情報も含めて広範な個人情報を取得され、政府の監視下におかれるおそれもある。
  4.  したがって、本法案は、立法事実を欠くばかりか、「注視区域」等に指定された区域の土地等の利用者や関係者のプライバシー権、思想・良心の自由、表現の自由その他多くの基本的人権を侵害するおそれが極めて大きいこと、自衛隊や米軍など軍事力の行動の保全のために、罪刑法定主義を無視して基本的人権を制約し、政令に「白紙委任」するという、平和主義の理念に悖るものであるから、当会は、同法案の制定に反対し、参議院において採決を強行することなく、廃案とすることを強く求めるものである。

以上

2021(令和3)年6月9日
埼玉弁護士会 会長 髙木 太郎

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