2021.07.14

最低賃金の大幅な引き上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

  1.  当会は,2021年の最低賃金改定額の決定に当たり,中央最低賃金審議会,埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し,最低賃金額を大幅に引き上げ,少なくとも1000円以上とする答申・決定をすること,国に対し,最低賃金法を改正し全国一律最低賃金制度を実施することを速やかに検討するとともに,中小企業への充分な支援策を構築することを求める。

  2.  当会は,これまでにも繰り返し,最低賃金法が定める「労働者の生活の安定」及び「労働力の質的向上」を達成し,さらには深刻化している貧困と格差の拡大の問題を解決するため,最低賃金の大幅な引き上げを求めてきた(2016年10月12日付・2018年6月19日付・2020年7月8日付「最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明」)。
     これに対し,2016年から2019年にかけて,全国加重平均額で毎年3%を超える最低賃金額の引き上げが行われてきた。もっとも,引き上げ後の最低賃金額も,労働者の生活の安定を保障するのにふさわしい水準に達しているとは言い難い。
     さらに,2020年には,新型コロナウイルスの感染拡大により,経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産・廃業に追い込まれる懸念が広がる中,最低賃金の引き上げが企業経営に与える影響を重視して引き上げを抑制すべきという意見への配慮から,中央最低賃金審議会は,地域別最低賃金額の引き上げ額について目安額の提示を見送った。これを受けて,埼玉地方最低賃金審議会は,引き上げ額を2円とする答申を行い,2020年度の埼玉県最低賃金額は,926円から928円への2円引き上げの改定にとどまった。他の地域でも,2020年度の引き上げ額は0~3円にとどまっている。
     しかし,2020年7月8日付会長声明で述べたとおり,コロナ禍を理由として,最低賃金引き上げの方向性を止めるべきではない。とりわけ,最低賃金の影響を大きく受けることの多い非正規労働者は,コロナ禍において,不安定な雇用による失業,蓄えがない状況で収入の道が断たれることへの恐怖と直面しながらの生活を余儀なくされている。コロナ禍のもとでいっそう広がる貧困と格差を是正し,労働者の生活を守るため,最低賃金の引き上げにはもはや一刻の猶予も許されるべきではない。

  3.  この点,フランスでは,2021年1月に10.15ユーロ(約1329円)から10.25ユーロ(約1342円)に引き上げられた。ドイツでは,2021年1月に9.50ユーロ(約1245円)へ引き上げられ,さらに同年7月から9.60ユーロ(約1258円)へ,2022年1月に9.82ユーロ(約1286円)へ,同年7月に10.45ユーロ(約1369円)へ引き上げとなることが決定された。イギリスでも,2021年4月から成人(25歳以上)の最低賃金が8.72ポンド(約1334円)から8.91ポンド(約1363円)に引き上げられた(以上,1ユーロ=131円,1ポンド=153円換算)。アメリカでも,バイデン大統領が連邦最低賃金を15ドルとする方針を打ち出し,2021年4月には,連邦政府と契約する業者の従業員の最低賃金を現在の時給10.95ドルから時給15ドルに引き上げる大統領令に署名している。このように,コロナ禍で経済が停滞する状況下においても,諸外国では最低賃金の引き上げが実現している。
     我が国においても,すべての労働者の生活を持続可能なものとし,消費の底上げによる経済の活性化を図る手立てとして,最低賃金の引き上げは,むしろ積極的に推し進められなければならない。

  4.  また,最低賃金については,地域間格差が依然として大きく,しかも拡大していることが,重大な問題として指摘されているところである。この点について,日本弁護士連合会は,全国一律最低賃金制度を実現すべきとの立場を明らかにしている(2020年2月20日付「全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書」,2021年5月14日付「低賃金労働者の生活を支え,コロナ禍の地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」)。
     地域別最低賃金の考慮要素とされる最低生計費は,最近の調査では都市部と地方での地域間格差はほとんどなく,地域別最低賃金の役割,立法事実は既に失われている。地域経済の活性化や都市部への一極集中からのリスク分散という観点からも,地方の最低賃金を大幅に引き上げて,地域間格差を速やかに縮小させ,全国一律最低賃金制度を実施することが必要である。

  5.  もちろん,最低賃金の引き上げにより影響を受ける企業(特に中小企業)への配慮は必要である。すなわち,政府が,減税,社会保険料の減免,補助金支給といった支援策を講じることにより,企業の倒産や雇用の縮小を招くような事態を回避すべきである。

  6.  以上より当会は,本年の最低賃金改定額の決定にあたり,中央最低賃金審議会,埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し,最低賃金額を大幅に引き上げ,少なくとも1000円以上とする答申・決定をするよう求めるとともに,国に対し,中小企業への充分な支援策と共に,最低賃金法の改正を含めた全国一律最低賃金制度の実施を可及的速やかに検討するよう求めるものである。

以上

2021(令和3)年7月14日
埼玉弁護士会 会長 髙木 太郎

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