2021.09.30

令和3年度司法試験合格者発表を受けての会長談話

 まずは、2021(令和3)年度司法試験合格を果たした1,421人名の方々に対し、心から祝福の意を表します。
 皆様が、これから始まる司法修習において一層の研鑽を積まれ、法曹となってからも研鑽を継続され、活躍されることを期待します。
 埼玉弁護士会では、若手の会員に委員会活動等に多数参加していただいておりますが、特に、本年8月に開催された関東十県会夏期研究会においては、60期台後半の会員を中心に、「使用貸借」の書籍を制作発刊しました。若手の皆さんが、協力して調査をし、討議をし、研鑽を続けられる姿に感銘を受けるとともに、社会の様々な要請に応えることができる質の高い法曹を輩出する第一歩はここにあることを改めて感じております。
 私たちも、皆さんとともに、日々研鑽を続け、弁護士法1条に基づき、基本的人権の擁護、社会正義の実現のために邁進していく所存です。
 さて、埼玉弁護士会としては、令和3年度司法試験合格者発表を受けて、従来と同様、司法試験管理委員会・法務省に対して、下記の点を指摘すべく、ここに埼玉弁護士会会長談話として発出致します。

  1.  本年9月7日、2021(令和3)年度司法試験合格者数が1421人であるとの発表がなされた。政府は合格者数1500人を目標に掲げているが、昨年の合格者数1450人に引き続き、これを維持することができなかったものであるが、合格率でみたときには、41.5%(対受験者数比。昨年は39.1%)と過去最高となった。
     当会は、本年2月の昨年度の合格発表直後にも抗議の意思を表明した会長談話を、本年8月12日には「令和3年司法試験に関し厳正な合否判定を求める会長声明」を発出し、毎年受験者数が減少しているにもかかわらず、合格者数1500人、又は、昨年度と同等の合格者数を維持するために合格ラインが下げられることはあってはならないとの意見表明をしているが、本年の司法試験の結果は、志願者数が減少しているにもかかわらず、合格率が高まったことから明らかなとおり、当会の声明に反し、厳正な合否判定によらず、政策的に合格者数を維持させていると言わざるを得ず、極めて遺憾である。

  2.  そもそも、司法試験の合格者数は、1990(平成2)年までは500人前後で推移していたところ、その後、漸次増加し、1997(平成9)年には746人、2001(平成13)年には990人などといった人数になった。
     しかし、政府が、2002(平成14)年3月に司法制度改革推進計画を閣議決定し、司法試験合格者数の数値目標を年間3000人程度として以降、司法試験合格者数は急激に増加することとなり、2007(平成19)年に2099人となった後は2013(平成25)年まで2000人を超えていたのである。
     このように司法試験合格者が急激に増やされた一方で、裁判官、検察官の採用人数がさほど増えないため、その増加人数分のほとんどが弁護士となった。これにより、弁護士の人数は、2001(平成13)年に1万8243人であったところ、本年は4万3104人(令和2年9月1日現在)と激増しているのである。
     政府は、2015(平成27)年6月、司法試験合格者数の数値目標を半減させて年間1500人以上としたが、それでも弁護士急増の状況を継続することに変わりがないのであって、 弁護士過剰によって生じる諸問題を悪化させる結果となることにも何ら変わりはない。無論のこと、合格者数が1500人よりわずかに減少させたところで、状況が一変するものではない。

  3.  また、裁判所における新受事件数の統計や弁護士会の法律相談センターにおける相談件数の統計等からも明らかなとおり、弁護士人口が急増したにもかかわらず、弁護士に対する需要が増加する状況にはなく、むしろその需要の低下傾向すらみられている状況にある。
     当会が本年実施した、当会所属弁護士に対するアンケート調査によれば、受任事件数の減少傾向は顕著であり、それに伴う収入減少によって、公益活動や無償の人権擁護活動を行う余裕が奪われ、さらには、弁護士間の過当競争や弁護士の活動の質の低下とも相まって、利用者である市民に損失をもたらすことを懸念する声が数多くよせられた。
     このような現役弁護士の状況を目の当たりにし、法曹を目指そうとする者の人数自体が急減してしまっている事実も看過できない。この状況を放置すれば、わが国における司法は弱体化し、結果として国民の権利・自由の確保が揺らぎかねない。

  4.  さらに、法曹志願者数の推移をみると、法科大学院志願者数については、ピーク時に7万2800人(平成16年)であったところ、令和2年度は8161人となっている。また、司法試験出願者数(旧司法試験の廃止後)については、ピーク時に1万1892人(平成23年)であったが、令和3年は3754人となっている。この状況からすると法曹志願者が激減しているのは明白である。
     また、本年の司法試験の受験資格者の法科大学院入学当時の入学者数は、平成27年度が2201人、平成28年度が1857人、平成29年度が1704人、平成30年度が2330人、令和元年度が1862人と、平成18年度の5784人と比べ約30%に過ぎない。
     平成18年度入学者が受験資格を得た平成20年度の司法試験合格者は2065人であり、対受験者数比の合格率は32.9%、平成21年度の司法試験合格者は2043人、対受験者数比の合格率は27.6%であったことからすれば、法科大学院志願者数、入学者数、司法試験出願者数が激減しているにもかかわらず、合格率が40%を超えることは、輩出される法曹の質という観点において、国民から信頼を得ることは困難である。

  5.  当会においては、早くから上記弊害の発生を憂慮して議論を重ねてきており、 2007(平成19)年及び2009(平成21)年には、 司法試験の合格者数を年間1000人程度とすべき旨の総会決議をした。
     また、2015(平成27)年には、全国に先駆け、司法試験の合格者数を年間700人程度とすべき旨の総会決議をした。
     さらに、2017(平成29)年からは毎年、司法試験に関し厳正な合否判定を求める会長声明を発出し、合格者数1500人を維持するために合格ラインが下げられることがあってはならないとの意見表明をした。

  6.  しかるに、本年9月7日に発表された司法試験合格者数は、なお弁護士急増の状況を継続させるものであり、さらに輩出される法曹の質の確保を保持できない結果を招くものであるから、強く抗議の意思を表明する。

以上

2021(令和3)年9月30日
埼玉弁護士会 会長 髙木 太郎

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