2021.11.10

民法の成年年齢引き下げの施行期日延期を求める会長声明

 民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(以下「本法律」という。)の2022(令和4)年4月1日の施行日まで、残り5ヶ月を切った。
 当会は、平成29年8月9日、「民法の成年年齢引き下げに反対する会長声明」を公表し、18歳、19歳の若年者の消費者被害の増加への懸念等を指摘し、成年年齢引き下げの問題は、多面的かつ十分な時間をかけた国民的議論を経て決定されるべきであるとして、成年年齢の引き下げに反対する旨の意見を述べたが、その後、本法律が成立した。
 一般に、社会経験、知識、判断力に乏しいとされる若者はマルチ商法やキャッチセールスなどの悪質商法の被害に遭いやすいとされるが、これまで未成年者については民法の定める未成年者取消権により保護されてきた。しかしながら、本法律の施行により、18歳・19歳の若者は未成年者取消権を失うことになり、これらの若者が悪質商法の標的となることで、消費者被害が拡大することが強く懸念される。
 この点について、民法の成年年齢引き下げについての2009(平成21)年10月の法制審議会の意見は、成年年齢の18歳への引き下げを適当としつつも、その前提条件として、①若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれを解決する施策が実現されること、②施策の効果が十分に発揮されること、③施策の効果が国民の意識として現れること、を掲げていた。
 また、本法律の成立に際し、参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされ、そこでは、本法律の施行にあたり、①若年者の消費者被害の拡大防止のために、知識、経験、判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(法成立後2年以内)、②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内)、③マルチ商法等への対策について検討し、必要な措置を講ずる、④質量ともに充実させた消費者教育の実施、⑤18歳・19歳の若者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーン実施などの施策について、格別の配慮が求められた。
 しかし、本法律が成立した2018(平成30)年6月以降、3年余りが経過し、施行まで5ヶ月を切った現時点においても、状況はさほど変わっておらず、上記附帯決議が求める施策が十分に実施されているとは到底言いがたい。
とくに、18歳・19歳の若年者が未成年者取消権を喪失することによる消費者被害拡大に対応する施策は急務であるが、極めて不十分である。2018年に消費者契約法が一部改正されたが、上記附帯決議が求めるつけ込み型不当勧誘の取消権の創設は、参議院法務委員会の附帯決議で明記された期限をすでに徒過しているにもかかわらず、その目途も立っていない。
 また、消費者教育についても、「アクションプログラム」や「成年年齢引き下げに伴う消費者教育全力キャンペーン」が実施されているものの、消費者被害の予防につながる実践的な消費者教育が十分に行われているとはいえず、さらに成年年齢引き下げ自体の周知はされても、未成年者取消権を18歳で失うことによる消費者被害拡大のおそれについての周知徹底も十分になされていない。
 以上の実情からすれば、附帯決議で示された消費者被害防止のための施策は未だ全く整備されておらず、これから直ちに必要な措置に着手したとしても、施行日までにかかる施策を実現するのは極めて困難である。
 よって、当会は、上記状況を踏まえ、国に対し、成年年齢引き下げの施行期日を延期した上で、上記附帯決議に示された施策すべての速やかな実現を求める。

以上

2021(令和3)年11月10日
埼玉弁護士会 会長 髙木 太郎

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