2022.01.12

死刑執行に抗議する会長声明

  1.  2019年12月の前回の執行から、死刑執行がない状態が2年間続いていたにもかかわらず、2021年12月21日、古川禎久法務大臣の命令により、死刑確定者3名に対する刑の執行がなされた。
     今回執行された者のうちの2名は、再審請求中であったとされる。確定判決であっても誤判の可能性が皆無でない以上、再審請求の機会は十分に保障されなければならず、その機会を奪うことは適正手続(憲法31条)の観点から問題がある。もう1名は、妄想性人格障害だったとされるが、執行時の心身の状態などの具体的な情報もおよそ明らかにされておらず、心神喪失の状態の者に対する死刑執行の停止を規定する刑事訴訟法479条第1項に反して執行された可能性も懸念される。

  2.  死刑は、国家が人命を奪い、これにより人が享有するすべての権利・自由を剥奪する刑罰である。それ故、死刑は究極の人権侵害制度である。しかも、誤判や冤罪の危険が常につきまとう現在の刑事司法制度の下では、死刑は取り返しのつかない結果を招来するものであり、このことは、死刑確定後の再審により無罪が確定した過去4件の事件(免田、財田川、松山、島田事件)からも明らかである。
     このように、死刑が生命権侵害という究極の人権侵害を内包する刑罰である以上、基本的人権の尊重という憲法の最高価値を実現する観点からは、死刑制度の廃止を志向すべきであり、そのために全社会的な議論を尽くすことが求められる。

  3.  世界各国の状況をみると、2020年12月末現在、すべての犯罪に対して死刑を廃止した国は108か国、通常犯罪のみに死刑を廃止した国は8か国、事実上、死刑を廃止している国は、28か国であった。死刑制度を残し、実際に死刑を執行している国は世界的にも少数といえる。
     日本政府は、これまで国連の自由権規約委員会(1993年、1998年、2008年、2014年)、拷問禁止委員会(2007年、2013年)及び人権理事会(2008年、2012年)から、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとする勧告を受けてきた。さらに、2018年7月になされた各死刑執行に対しては、駐日欧州連合(EU)代表部、EU加盟国の駐日大使、アイスランド、ノルウェー、スイスの駐日大使が共同声明を出し、日本政府に対し、死刑を廃止することを視野に入れた死刑の執行停止の導入を呼びかけた。米国においても、昨年7月、司法長官が、連邦レベルでの死刑の執行の停止を指示するなど、死刑廃止は世界的な潮流といえるが、今回の死刑執行は、国際機関からの度重なる勧告等を軽視するものといわざるをえない。

  4.  このような状況下においてなされた今回の死刑執行は、世界的な潮流に逆行するものであり、また、人命を軽視する日本政府の姿勢を端的に示すものである。
     さらに、日本政府は、再三の要求にもかかわらず、死刑に関する情報を十分に公開せず、全社会的議論の土壌すら与えようともしない。このような日本政府の態度は、基本的人権の尊重という憲法の最高価値を蔑ろにするだけでなく、国際協調主義の精神・趣旨(憲法98条2項)に悖るものであり、厳しく批判されなければならない。

  5.  当会は、これまでも死刑執行の度に、重ねて日本政府に対して、究極の人権侵害制度である死刑の廃止に向けた全社会的議論を主導すること、その間においてはすべての死刑執行を停止することを強く求めてきた。2020年3月26日には、臨時総会において、「死刑廃止に関する総会決議」を議決し、すべての死刑確定者に対する執行を即時に停止し、死刑を廃止するための法的措置を直ちに講じることを求め、同年には、死刑廃止実現本部を設置し、死刑廃止に向けた諸活動を活発化させてきた。去る12月15日にも、2014年の静岡地方裁判所再審開始決定以来、7年を経て未だ再審手続が続く袴田事件の市民学習会を開催したが、参加者からは冤罪の懸念が拭えない以上死刑を廃止すべきとの声も多く寄せられている。こうした中でなされた今回の死刑執行に対し、改めて強く抗議する。

  6.  以上から、当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、改めて日本政府に対し、死刑廃止の実現に向けた全社会的議論を行うこと、及び、すべての死刑確定者に対する執行を即時に停止し、死刑を廃止するための法的措置を直ちに講じることを強く求める。

以上

2022(令和4)年1月12日
埼玉弁護士会 会長 髙木 太郎

戻る