2022.02.09

ワクチン・検査パッケージ制度の実施に強く懸念を表明する会長声明

  1.  政府は、令和3年11月19日、新型コロナウイルス感染症対策本部において、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(以下「本方針」)を決定するとともに、「ワクチン・検査パッケージ制度要綱」(以下「本要綱」)を定めた。
     政府によれば、本要綱による「ワクチン・検査パッケージ制度」(以下「本制度」)は、①飲食店やイベント主催者等の事業者が、入店者・入場者等の利用者に新型コロナウイルスワクチン(以下「ワクチン」)の接種歴又は陰性の検査結果のいずれかの証明書等を提示させ確認する場合に、飲食時の人数制限、イベントの収容人数制限を緩和し、②国は、本制度の適用を受けた者に対しては都道府県をまたぐ移動の自粛を要請しない等、行動制限を緩和するものだと説明されている。

  2.  しかしながら、本制度は、緊急事態宣言又はまん延防止等重点措置の適用区域等にある市民について、ワクチン接種歴の有無によって飲食店やイベント等の利用ないし都道府県をまたぐ移動等につき差異を設けるものであって、もともと任意であるはずのワクチン接種の有無によって諸個人を別異に取り扱うものである。代替手段として、PCR検査等による陰性結果を提示するという方法も採用されているが、飲食店の利用や都道府県をまたぐ移動の都度、陰性結果等の入手を要求することは到底現実的でないこと(検査キット等が不足している現状ではなおのこと)からすれば、本制度による差別的取扱いは、平等権を保障した憲法14条に違背する可能性が極めて高いものといえよう。
     また、上記のとおり陰性結果の提示が容易でない状況の下で、本制度の適用により、飲食店等の自由な利用を求める者、自由な移動を求める者は、ワクチン接種歴等の提示を余儀なくされる。このことは、ワクチン接種による副作用(副反応)などの安全性に関し不安を持つ市民や、体質等の面でワクチン接種が困難な市民もいるなか、これらの市民に対しても事実上ワクチン接種を強いることになる。そのような面において、本制度は、ワクチン接種を受けるかどうかに関する個々人の自己決定権(憲法13条)を侵すものであり、他方で、非接種者における自由な飲食店等の利用や歴史的にも重要な意義を有する移動の自由(憲法13条、22条1項)を不当に制約する強いおそれがあるものといわなければならない。
     さらに、本制度は、本方針にもとづく飲食時の人数制限やイベントの収容人数制限を緩和するため、飲食店やイベント主催者等の事業者にワクチン接種証明書や陰性結果通知書の確認作業を義務づけるものであり、事業者個々人の職業活動の自由(憲法22条第1項)が害されるおそれもある。

  3.  以上の問題に加え、本要綱は、政府等による行動制限の緩和とは無関係に、民間事業者等が利用者のワクチン接種歴や検査結果を活用することは原則として自由であり、「店舗への入店や会場への入場に当たってワクチン接種歴や検査結果の提示を求めることも考えられる」と明記し、事実上そのような取扱いを推奨している。
     しかし、先に述べたとおり、ワクチン接種に不安を持つ市民やワクチン接種を困難とする市民もいる中でワクチン接種歴の有無によって飲食店やイベント等の利用・参加に差異を設けることは、憲法第14条に違背する可能性が高いのであるから、そのような措置を民間事業者に推奨する本要綱は、同条の趣旨に違反するだけでなく、「新型コロナウイルスワクチンを接種していない者に対して、差別、いじめ、職場や学校等における不利益取扱い等は決して許されるものではない」とした予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律に対する附帯決議にも反する。また、このことによって市民の間でワクチン接種の有無による差別や分断が広い範囲で招来・助長されることも危惧される。

  4.  よって、当会は、本制度により、ワクチン接種の事実上の強制やワクチン非接種者に対する差別的な取扱いが招来・助長されることに対して強い懸念を表明する。

以上

2022(令和4)年2月9日
埼玉弁護士会 会長 髙木 太郎

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