2022.07.13

改めて最低賃金の大幅な引き上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

  1.  当会は,2022年の最低賃金改定額の決定に当たり,中央最低賃金審議会,埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し,最低賃金額を大幅に引き上げ,少なくとも直ちに1000円以上とする答申・決定をすることを求め,国に対し,最低賃金法を改正し全国一律最低賃金制度を実施することを速やかに検討するとともに,中小企業への充分な支援策を講ずることを求める。

  2.  当会は,これまでにも繰り返し,最低賃金法が定める「労働者の生活の安定」及び「労働力の質的向上」を達成し,さらには深刻化している貧困と格差の拡大の問題を解決するため,最低賃金の大幅な引き上げを求めてきた(2016年10月12日付・2018年6月19日付・2020年7月8日付「最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明」,2021年7月14日付「最低賃金の大幅な引き上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」)。
     これに対し,2016年から2021年にかけて,全国加重平均額で毎年3%を超える最低賃金額の引き上げが行われてきた。この間,中央最低賃金審議会は,2020年については,コロナ禍による中小企業への影響に鑑みて,地域別最低賃金の引き上げ額につき目安額の提示を見送っていたが,2021年には全国平均28円を目安に引き上げることを決定した。これを受けて,埼玉地方最低賃金審議会は,引き上げ額を28円とする答申を行い,2021年度の埼玉県最低賃金額は,928円から956円へ28円の引き上げ改定となった。
     しかし,コロナ禍によりいっそう広がってしまった貧困と格差を是正し,労働者の生活を守るため,最低賃金を引き上げることは喫緊の課題である。特に現状においては,ロシアによるウクライナ侵攻といった国際情勢を背景に,燃料・資源の高騰や円安等の影響を受けた物価高が進み,多品目に渡る生活必需品の値上がりが生じている。一般に,低所得者層であるほど消費支出に占める生活必需品の比重が高く,貧困と格差が広まっている現状において,特に低所得層にいる市民の生活がおびやかされている。政府は,2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022について」(骨太方針2022」)において,最低賃金の全国加重平均が1000円以上となることを目指し,引き上げに取り組むと明記しているものの,「できる限り早期に」と述べるにとどまっている。市民の生活がおびやかされている状況下において,最低賃金の大幅な引き上げ(全国加重平均1000円以上)はもはや一刻の猶予もなく,本年度の改定によって直ちに実現されるべきものである。

  3.  この間,世界各国でも最低賃金(時給)の引き上げが進んでいる。フランスでは,2021年10月1日に10.25ユーロ(約1465円)から10.48ユーロ(約1498円)に引き上げられた。ドイツでは,2022年1月に9.82ユーロ(約1404円)になり,同年7月に10.45ユーロ(約1494円)へ,同年10月には,12ユーロ(約1716円)へ大幅に引き上げられることが決定された。イギリスでも,2022年4月より,成人(23歳以上)の最低賃金〔全国生活賃金〕が8.91ポンド(約1479円)から9.50ポンド(約1577円)に引き上げられた(以上,1ユーロ=143円,1ポンド=166円換算〔2022年6月現在〕)。アメリカでも,バイデン大統領が連邦最低賃金を15ドルとする方針を打ち出し,ワシントン州,カリフォルニア州,コネチカット州,イリノイ州などでは,時給15ドルの最低賃金を既に実現しているか,もしくは将来的な引き上げを決定している。このように,コロナ禍で経済が停滞し,かつ,燃料高・物価高が進行する状況下においても,諸外国では最低賃金の引き上げを実現しているのである。
     我が国においても,すべての労働者の生活を持続可能なものとし,消費の底上げによって経済を活性化する方策として,最低賃金の引き上げを積極的に推し進めなければならない。

  4.  2021年7月14日付会長声明でも述べたとおり,最低賃金について,地域間格差が大きく,更に拡大していることは,極めて重大な問題である。
     地域別最低賃金の考慮要素とされる最低生計費について,近時では地域間格差はほとんどなく,地域別最低賃金の役割,立法事実が既に失われている中においては,地域間格差を速やかに縮小させ,全国一律最低賃金制度を実施することが必要である。

  5.  他方,物価高騰は市民生活のみならず,中小企業にも大きな打撃を与えている。最低賃金を引き上げる環境を整備するためにも,影響を受ける中小企業等への配慮が不可欠である。すなわち,政府が,中小企業等を対象とした減税,社会保険料の減免,補助金の支給といった,きめ細やかな支援策や取引の適正化のための措置等を講じることにより,中小企業の倒産や雇用の縮小を招くような事態を回避すべきである。

  6.  以上より当会は,本年の最低賃金改定額の決定にあたり,中央最低賃金審議会,埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対しては,最低賃金額を大幅に引き上げ,少なくとも直ちに1000円以上とする答申・決定をするよう求め,国に対しては,中小企業への充分な支援策を講じつつ,最低賃金法の改正を含めた全国一律最低賃金制度の実施を,可及的速やかに検討するよう改めて求める。

以上

2022(令和4)年7月13日
埼玉弁護士会 会長 白鳥 敏男

戻る