2023.02.08

安保三文書を改定する閣議決定の撤回を求める会長声明

 2022(令和4)年12月16日、政府は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画(いわゆる「安保三文書」)を改定する旨の閣議決定を行った。防衛の根幹である防衛力は安全保障を確保するための最終的な担保であり、我が国に脅威が及ぶことを抑止するとともに、脅威が及ぶ場合には、これを阻止・排除し、我が国を守り抜くという意思と能力を表すものでなければならないとし、そのためには、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として相手の領域において有効な反撃を加えることを可能とする能力(「反撃能力」)を自衛隊に保有させることが必要であるなどと説明されている。
 この「反撃能力」と同趣旨の概念は、これまで「敵基地攻撃能力」との表現で慣用され、このような敵基地攻撃のための装備の保有に関し、政府は戦後の長きにわたり、他国の領域に対し直接的な脅威を与えるような兵器等を保有することは戦力不保持を規定する憲法第9条第2項の解釈上許されない旨の見解を示してきた。このたびの閣議決定は、従来の憲法解釈に基づく上記政府見解をその基礎から改変するものである。
 当会は、2015(平成27)年5月28日に発表した「集団的自衛権行使を容認する違憲な閣議決定の撤回を求め、安全保障法制の制定に反対する総会決議」をはじめ、歴代政権により長年にわたって繰り返し確認されてきた憲法第9条に関する従来の政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を強く非難する意見を表明し、実質的な解釈改憲を閣議決定で実行することの不当性を繰り返し主張してきた。自衛隊に反撃能力の保有を認めるこのたびの閣議決定も、その問題点において集団的自衛権の行使を容認する閣議決定と何ら異なるところはない。
 一連の閣議決定により集団的自衛権の行使容認のもとに自衛隊の反撃能力保有が実現した場合、憲法の規定に全く変更がないにもかかわらず、従来の憲法解釈上全く想定されていなかった自衛隊による他国攻撃が可能となり得る。実質的解釈改憲を内容とするこのような閣議決定の上塗りを認めることは、国権の最高機関である国会の権能、戦争の放棄と戦力不保持を規定する憲法第9条、憲法改正手続を規定する憲法第96条をことごとく形骸化させる結果を許容することに他ならない。
 当会は、国民主権原理及び立憲主義を堅持し、平和主義を擁護する立場から、安保三文書を改定するこのたびの閣議決定を強く非難し、政府に対しその撤回を求める。

以上

2023(令和5)年2月8日
埼玉弁護士会 会長 白鳥 敏男

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