2023.06.15

物価高騰に対応した最低賃金の大幅な引き上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

  1.  当会は、2023年の最低賃金改定額の決定に当たり、中央最低賃金審議会、埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し、最低賃金額を大幅に引き上げる答申・決定をすることを求め、国に対し、最低賃金法を改正し全国一律最低賃金制度を実施することを速やかに検討するとともに、中小企業への充分な支援策を講ずることを求める。

  2.  当会は、これまでにも繰り返し、最低賃金法が定める「労働者の生活の安定」及び「労働力の質的向上」を達成し、さらには深刻化している貧困と格差の拡大の問題を解決するため、最低賃金の大幅な引き上げを求めてきた(2016年10月12日付・2018年6月19日付・2020年7月8日付「最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明」、2021年7月14日付「最低賃金の大幅な引き上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」、2022年7月13日付「改めて最低賃金の大幅な引き上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」)。
     これに対し、2016年から2022年にかけて、コロナ禍による中小企業への影響を考慮した2020年を除き、全国加重平均額で毎年3%を超える最低賃金額の引き上げが行われてきた。特に、2022年は前年度に比べて全国加重平均の上昇額は31円と目安制度が始まって以降最高額となった。埼玉地方最低賃金審議会も、同目安を受けて、956円から31円引き上げる987円を答申した。
     しかし、近時の物価の上昇はそれを上回る状況にある。厚生労働省公表の毎月勤労統計調査によっても、物価を考慮した実質賃金指数は令和4年4月から令和5年3月まで前年同月比で12ヶ月連続の減少を記録し、最低賃金の引き上げが物価高騰に追いつかない状態が続いている。
     これを受けて、大手企業においては定期昇給とベースアップを合わせた賃上げ率は3.91%と30年ぶりの3%台後半の水準となっている(経団連発表の2023年の春季労使交渉の1次集計結果より)。高水準の賃上げの理由は、物価上昇への対応として賃金引き上げが社会的に強く求められていたからである。
     このような大手企業の動きは、中小企業においても波及させる必要がある。生活必需品を含めた大幅な物価高が進んでいる現状においては、最低賃金で勤務する低所得者層にいる市民の生活こそが厳しくなっている。物価高に対応し、「労働者の生活の安定」を図るためには最低賃金の大幅な引き上げが必要不可欠であり、速やかに実現されるべきである。

  3.  もっとも、中小企業は大手企業に比べて賃上げや労働条件改善に対する余力が乏しい上、物価高は市民生活のみならず、中小企業にも大きな打撃を与えている。
     そこで、最低賃金を引き上げる環境を整備するためにも、引き上げの影響を受ける中小企業への配慮が不可欠である。すなわち、政府が、中小企業を対象とした減税、社会保険料の減免、補助金の支給といった、きめ細やかな支援策や取引の適正化のための措置等を講じることにより、中小企業の倒産や雇用の縮小を招くような事態を回避すべきである。

  4.  2021年7月14日付、2022年7月13日付会長声明でも述べたとおり、最低賃金について、地域間格差が大きく、更に拡大していることは、極めて重大な問題である。埼玉県においても、隣接する東京都の最低賃金が時給1072円であることから、労働力の流出を引き起こしかねない。
     地域別最低賃金の考慮要素とされる最低生計費について、近時では地域間格差はほとんどないことが明らかとなっている。
     既に述べた物価高は全国的に起きている状況である。そのような中、地方において最低賃金で勤務する低所得者層はより厳しい生活を強いられている。
     地域別最低賃金の役割、立法事実が既に失われ、物価高騰が著しい現状においては、特に地方の最低賃金を大幅に引き上げ、地域間格差を速やかに縮小させ、全国一律最低賃金制度を実施することが必要である。

  5.  以上のことから、当会は、本年の最低賃金改定額の決定にあたり、中央最低賃金審議会、埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対しては、物価高に対応し「労働者の生活の安定」を図るべく、最低賃金額を大幅に引き上げる答申・決定をするよう求め、国に対しては、中小企業への充分な支援策を講じつつ、最低賃金法の改正を含めた全国一律最低賃金制度の実施を可及的速やかに検討するよう改めて求める。

以上

2023(令和5)年6月14日
埼玉弁護士会 会長 尾崎 康

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