2023.09.14

在留資格を有しない子どもに対する在留特別許可の範囲を拡大することを求める会長声明

  1.  はじめに
     2023年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生したこどもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」という。)を発表した。対応方針は、「送還忌避者」のうち、改正入管法の施行時までに、日本で出生して小学校、中学校あるいは高校で教育を受けており、引き続き日本で生活をしていくことを真に希望している子どもとその家族を対象に、家族一体として在留特別許可を与えるとしている。
     「送還忌避者」とは、退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、自らの意思で日本からの退去を拒んでいる者を指す。その中には、難民であることや日本に家族がいること等を理由に、日本での在留を希望している者が多く含まれている。法務省によると、昨年末時点で、在留資格のない送還忌避者のうち、日本で出生した子どもは201人、日本で出生していない子どもは94人が日本に在留しているとのことである。
     この対応方針によって、日本で出生し、日本の小学校、中学校あるいは高校で教育を受けながらも、在留資格を有しない子どもとその家族の一部に在留資格が認められることとなる。特に子どもたちが、同世代の他の子どもたちと同様の家族生活・学校生活を送れるようになり、安定した法的地位の元に将来を考えられるようになることは、望ましいことである。
     しかし、対応方針には以下の点において問題があり、当会は懸念を表明するとともに、在留特別許可の範囲の拡大を求める。

  2.  本邦で出生したことを要件としている点について
     まず、対応方針は、子どもが「本邦で出生して」いることを要件としている。しかし、幼少期に来日し、小学校、中学校又は高校で教育を受けている子どもたちが100名近く存在するところ、日本で出生した子どもと例えば2歳で来日した子どもとの間を線引きし、前者にのみ在留特別許可を与え、後者を国籍国に送還することに合理性はない。なぜなら、いずれのケースであっても、日本の教育機関で同じ教育を受け、日本語を身につけ、交友関係を築き、日本に定着しているという点で差異はないからである。さらに、同じ両親の子どもでありながら、幼少期に来日した年長の子どもと日本で出生した年少の子どもとの間で結論が異なることとなるのは、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)をないがしろにし、家族の分断を招き、家族結合権(自由権規約17条、23条)を侵害する恐れがある。
     なお、この点について、齋藤健法務大臣は、同日の記者会見において、「我が国で出生していないこどもについても、個別の事案ごとにその点を含めて、諸般の事情を総合的に勘案して在留特別許可の許否を判断していくということになります。」としている。しかし、上記のとおり、日本で出生したか否かで区別することに合理性はないから、個別判断に委ねることなく、我が国に定着して育った子どもたちに区別なく在留特別許可をすべきである。

  3.  18歳未満を対象としている点について
     次に、対応方針では、「本邦で出生した子ども」、すなわち18歳未満であることを要件としている。そのため、本邦で出生していたとしても18歳以上になってしまった者は対応方針の対象外となってしまう。しかしながら、年齢が高いということは、通常は、日本で生活してきた期間がより長い者が多く、すなわち日本社会への定着の度合いも高いのであるから、そのような若者が対応方針の対象外となってしまうことに合理性はない。また、前述したのと同様、きょうだいの中で、年齢によって在留資格が得られる者とそうでない者が生じることになる。
     したがって、18歳以上の者であっても、日本で出生した者や幼少期に来日し日本で成長した者は、いずれも対応方針の対象とすべきである。

  4.  子どもに対する許否の判断において、親の前科を考慮する点について
     最後に、子ども自身が前記各要件を充たした場合でも、「親に看過し難い消極事情がある場合」は対応方針の対象外とされている。これは、親の入管法違反や前科を考慮するというものである。
     しかし、親の消極事情について、子どもに帰責性はなく、こうした条件を課すことは親の責任を子どもに負わせ、親の事情により子どもを差別することになる。従って、親の前科等を理由として在留を許可しないという条件は削除されるべきである。

  5.  まとめ
     以上のとおり、当会は、今般の対応方針につき、日本で出生した子どものみならず、日本で成長した子どもや、その後18歳以上になった者などについても、不合理な区別がされないようその条件を改め、在留特別許可をする子どもとその家族の範囲の拡大を求める。

以上

2023(令和5)年9月13日
埼玉弁護士会 会長 尾崎 康

戻る