2023.11.20

令和5年度司法試験合格者発表を受けての会長談話

  1.  本年11月8日、2023(令和5)年度司法試験合格者数が1781人(合格率45.5%)であるとの発表がなされた。一昨年の合格者数1421人(合格率41.5%)、昨年の合格者1403人(合格率45.5%)に引き続き、受験者の合格率が4割を超えることになる(なお、本年は、政府が目標として掲げる合格者数1500人を超える合格者数となっているものの、これはいわゆる在学中受験が解禁されて受験者数が増加したことに起因するものと解される。)。
     当会は、昨年の合格発表直後にも抗議の意思を表明した会長談話を出し、本年10月11日には「令和5年司法試験に関し厳正な合否判定を求める会長声明」を発出し、毎年法曹志願者数が減少しているにもかかわらず、合格者数1500人、又は、昨年度と同等の合格割合を維持するために合格ラインが下げられることはあってはならないとの意見表明をしているが、本年の司法試験の結果は、依然として合格率を昨年同様に設定するものといえるから、当会の声明に反し、厳正な合否判定によらず、政策的に合格者数を維持させていると言わざるを得ず、極めて遺憾である。

  2.  そもそも、司法試験の合格者数は、1990(平成2)年までは500人前後で推移していたところ、その後、漸次増加し、1997(平成9)年には746人、2001(平成13)年には990人などといった人数になった。
     しかし、政府が、2002(平成14)年3月に司法制度改革推進計画を閣議決定し、司法試験合格者数の数値目標を年間3000人程度として以降、司法試験合格者数は急激に増加することとなり、2007(平成19)年に2099人となった後は2013(平成25)年まで2000人を超えていたのである。
     このように司法試験合格者が急激に増やされた一方で、裁判官、検察官の採用人数がさほど増えないため、その増加人数分のほとんどが弁護士となった(なお、本年、裁判所職員定員法の改正がなされ、近年の事件動向及び判事補の充員状況を理由として、判事補数が減員されている。)。
     これにより、弁護士の人数は、2001(平成13)年に1万8243人であったところ、本年は4万4783人(令和5年11月1日現在)と激増しているのである。
     政府は、2015(平成27)年6月、司法試験合格者数の数値目標を半減させて年間1500人以上としたが、それでも弁護士急増の状況を継続することに変わりがないのであって、 弁護士過剰によって生じる諸問題を悪化させる結果となることにも何ら変わりはない。

  3.  また、裁判所における新受事件数の統計や弁護士会の法律相談センターにおける相談件数の統計等からも明らかなとおり、弁護士人口が急増したにもかかわらず、弁護士に対する需要が増加する状況にはなく、むしろその需要の低下傾向すらみられている状況にある。
     このため、弁護士人口の急増後、弁護士の経済的基盤の弱体化が統計上も顕著となっている。このことは、弁護士から公益活動や無償の人権擁護活動を行う余裕を奪い、さらには、弁護士間の過当競争や弁護士の活動の質の低下とも相まって、利用者である市民に損失をもたらしかねない状況ともなっている。かかる状況から、法曹を目指そうとする者の人数自体が急減してしまっている事実も看過できない。この状況を放置すれば、わが国における司法の弱体化は免れないのである。

  4.  法曹志願者数の推移をみると、法科大学院志願者数については、ピーク時に7万2800人(平成16年)であったところ、令和4年度は1万633人となっている。また、司法試験出願者数(旧司法試験の廃止後)については、ピーク時に1万1892人(平成23年)であったが、令和4年は3367人(令和3年は3754人)となっている。この状況からすると法曹志願者が激減しているのは明白である。なお、令和5年の司法試験出願者数は4165人ではあるものの、これは法科大学院在学中受験が認められた影響から増加したものと考えられ、現実の法科大学院最終学年在学者数を踏まえると、司法試験出願者数の実質的増加を基礎付ける事情とはいえない。
     また、本年の司法試験の受験資格者の法科大学院入学当時の入学者数は、平成28年度が1857人、平成29年度が1704人、平成30年度が2330人、令和元年度が1862人、令和2年度が1711人(入学定員充足率0.77)と、平成18年度の5784人と比べ約30%に過ぎない。平成18年度入学者が受験資格を得た平成20年度の司法試験合格者は2065人であり、対受験者数比の合格率は32.9%、平成21年度の司法試験合格者は2043人であり、対受験者数比の合格率は27.6%であったことからすれば、法科大学院志願者数、入学者数、司法試験出願者数が激減しているにもかかわらず、合格率が45%を超えることは、輩出される法曹の質という観点において、国民から信頼を得ることは困難である。

  5.  当会においては、早くから上記弊害の発生を憂慮して議論を重ねてきており、 2007(平成19)年及び2009(平成21)年には、 司法試験の合格者数を年間1000人程度とすべき旨の総会決議をした。また、2015(平成27)年には、全国に先駆け、司法試験の合格者数を年間700人程度とすべき旨の総会決議をした。さらに、2017(平成29)年からは毎年、司法試験に関し厳正な合否判定を求める会長声明を発出し、合格者数1500人を維持するために合格ラインが下げられることがあってはならないとの意見表明をした。

  6.  しかるに、本年11月8日に発表された司法試験合格者数は、なお弁護士急増の状況を継続させるものであり、さらに輩出される法曹の質の確保を保持できない結果を招くものであるから、強く抗議の意思を表明する。

以上

2023(令和4)年11月17日
埼玉弁護士会 会長 尾崎 康

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