2023.12.14

緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する会長声明

  1.  2023年(令和5年)第211回国会の衆議院憲法審査会において、緊急事態時の国会議員の任期延長を可能とする憲法改正の是非が議論された。自由民主党、公明党、日本維新の会等をはじめとする改正積極派は、大規模自然災害等の緊急事態時における国会の権能、特にその行政監視機能の維持を目的として、概ね70日ないし1年を上限とする任期延長案を主張している。

  2.  これら改正案に対しては、①参議院が3年ごとの半数改選とされている(憲法第46条)以上衆議院の解散や両議院の任期満了等の事態が生じても国会議員不在となる場面はあり得ないこと、②参議院の緊急集会は衆議院解散時に限らず衆議院の任期満了時にも開催できるとする見解が強く主張されており、また、緊急集会の議決に基づきとられた措置に対する衆議院の事後的な関与の機会も保障されている(憲法第54条2項、同条3項)から、現行制度においても緊急時における国会権能の維持は十分に担保されていると評価できること、③任期延長の要件が不明確かつ抽象的であることなど、多くの批判が表明されている。

  3.  議論されている国会議員の任期延長は、政府の判断で国民による選挙の機会を制限することと同旨である。国民の選挙権は日本国憲法の基本原理である国民主権を体現するものであるから、緊急時であったとしてもその制限には強い謙抑性が求められる。改正案に対する前記批判に加え、日本弁護士連合会をはじめとする多くの法曹団体から、公職選挙法上の郵便投票制度等の拡充や災害対策基本法上の被災自治体への職員派遣制度の弾力的運用といった関連法制の整備により、緊急時における国民の選挙権の具体的保障を図ることが可能であることの指摘がなされているところ、敢えて国会議員の任期延長を憲法に盛り込む必要性について、憲法審査会で十分な議論がなされたとは言い難い状況にある。

  4.  当会は、2015年(平成27年)10月14日、「緊急事態条項(国家緊急権)を新設する憲法改正に反対する会長声明」を発出した。同声明は、緊急事態の存在を口実として立憲主義を破壊し、憲法が国民に保障する基本的人権を時の政府が蹂躙する結果を生じさせかねない緊急事態条項の問題点を指摘して、その創設に向けた憲法改正への強い反対を表明したものであるが、当会の立場は今日においてもいささかも変わることはない。

  5.  このたびの議員任期延長案は、緊急事態の存在を理由とする安易な任期延長により、立憲主義の根幹をなす国民の選挙権を制限し、選挙結果の正当性を具備しない政権の居座りを惹起しかねないという趣旨において、従前当会が強く反対した緊急事態条項創設の問題点と本質を一にするものであり、立憲主義を堅持する当会の立場からは到底容認できない。

  6.  当会は、緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する。

以上

2023(令和5)年12月13日
埼玉弁護士会 会長 尾崎 康

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