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会長声明および決議書・意見書

朝鮮学校に対する補助金交付に関して公平な取り扱いを求める会長声明

2016年04月18日

1 文部科学大臣は,2016(平成28)年3月29日,「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」を発出した。本通知は,各都道府県知事に対して,「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が,その(朝鮮学校の)教育を重要視し,教育内容,人事及び財政に影響を及ぼしている」ことを考慮の上,補助金の交付対象となる各種学校中,朝鮮学校のみを対象として,各都道府県知事に補助金の適正かつ透明性のある執行の確保を求めるとともに,本通知の域内市町村関係部局への周知を求めるというものである。これに先立つ自由民主党の声明において,「朝鮮学校へ補助金を支出している地方公共団体に対し,公益性の有無を厳しく指摘し,全面停止を強く指導・助言すること」を含めた朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁強化策の早期実施を求めたことなどの経緯に鑑みれば,本通知は,これによって各地方公共団体における補助金停止を強く促進する効果をもたらしかねないものであり,極めて問題があると言わざるを得ない。


2 そもそも私立学校に対する補助金は,学校に在学する児童,生徒及び幼児に係る就学上の経済的負担の軽減を図るとともに,学校の経営の健全性を高め,学校の健全な発展に資するために交付されるものであり,多くの地方公共団体において朝鮮学校のようないわゆる各種学校も交付対象に含めている。
 朝鮮学校は,朝鮮半島が日本国に植民地支配された当時に,朝鮮民族の民族的文化を維持・承継・発展させることを阻害されたことによって喪失ないし停滞した文化的尊厳と固有の文化の回復を図るため設立され,運営されてきた学校である。朝鮮学校には,植民地支配時に日本国とその産業のために移住させられた人々の子孫が通い,ここでは,日本に滞在して社会生活を営み自立した社会人となるに必要な教育を,日本の小中高校及び大学教育に準じてほぼ同科目同程度の内容をもって実施している。
 朝鮮学校に対する補助金は,このような歴史的経緯や教育の実体をも踏まえ,上記補助金交付の趣旨に適うものとして,過去全国の地方公共団体で交付されてきた。とりわけ,地方公共団体による補助金は,国が半世紀以上に亘って朝鮮学校を私学助成の対象にしない中でも,「学びの場」という実情に照らし交付されてきた歴史がある。


3 いうまでもなく,すべての子どもたちには,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な教育を受ける権利が認められるのであり(憲法26条第1項,同第13条),各種学校への補助金も,子どもの学習権の保障として支給されるものである。これを国家間の外交問題を理由として制限することは,子どもの学習権を合理的な理由なく不当に制限するものであって,重大な人権侵害である。まして,朝鮮民主主義人民共和国の拉致問題や核実験等を理由として朝鮮学校への補助金を停止する行為は,本来,これら国家の問題に何ら責めを負うものではない朝鮮学校に通う子どもたちにさえ,これらの問題と何らかの関わりがあるかのような印象をもたらすものであり,差別を助長しかねない行為であることは,当会の埼玉県知事に対する2015(平成27)年11月25日付「警告書」においても指摘したところである。また,2014(平成26)年8月に採択された国連人種差別撤廃委員会による日本の定期報告に対する最終回答においても,朝鮮学校への補助金の交付停止等の措置に対し,「朝鮮学校に対し地方自治体によって割り当てられた補助金の停止あるいは継続的な縮小を含む,在日コリアンの子供の教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する」旨を指摘されているところである。


4 こうした点を踏まえれば,本通知についても,「朝鮮学校に通う子供に与える影響にも十分に配慮」することを求めている点こそ,最も留意すべき点なのであり,安易に外交問題と補助金交付を関連付けることによって,不当に朝鮮学校に通う子どもたちの教育を受ける権利を侵害することは,到底認めることはできない。
 これらの理由から,当会は,文部科学大臣に対しては,各地方公共団体における補助金不交付を強く促進する効果をもたらしかねない本通知の発出を強く批判する。
 また,既に支給を取りやめたか,あるいは元来支給を行っていない各地方公共団体に対しては,朝鮮学校に対する補助金の交付について,補助金交付の趣旨・目的とともに,上記憲法上の権利及び条約等の趣旨に合致した運用を行うよう求めると共に,現在補助金交付を行っている地方公共団体に対しては,国家間の外交問題と朝鮮学校に対する補助金交付の判断を安易に結び付け,生徒・児童達の教育を受ける権利を侵害することのないよう強く求める。



以 上

2016(平成28年)4月18日
埼玉弁護士会会長  福地 輝久